text:takafusa:s_takafusa050
50 何とかは濡るる袂に驚かむ袖にみなとの騒ぐなる夜に
校訂本文
また、その所に行きて心をなぐさむるほどに、小夜(さよ)うちへだたるほどに、常よりももの悲しくて、泣き濡らしたる袖の冷たく顔に当たれば、「桜の上着は花の色やかへりてしるからむ」と思ひわづらふほどに、ある人のここを過ぐとて、「袖にみなとの騒ぐかな、もろこし船も寄りぬばかりに1)」と、なに心なくうちながめて過ぎしかば、折から耳にとまりて、
何とかは濡るる袂(たもと)に驚かむ袖にみなとの騒ぐなる夜(よ)に
翻刻
またそのところにゆきて/s23l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100002834/23?ln=ja
心をなくさむるほとにさよ うちへたたるほとにつねより もものかなしくてなきぬら したるそてのつめたく かほにあたれはさくらの うはきははなのいろやかへり てしるからむとおもひわつらふ ほとにある人のここをすく とてそてにみなとのさはく かなもろこしふねもより/s24r
ぬはかりにとなに心なくう ちなかめてすきしかは おりからみみにとまりて なにとかはぬるるたもとにおとろかむ そてにみなとのさはくなるよに/s24l
1)
『伊勢物語』第26段参照。
text/takafusa/s_takafusa050.txt · 最終更新: 2024/03/26 13:26 by Satoshi Nakagawa