text:shaseki:ko_shaseki10b-04
沙石集
巻10第4話(122) (長楽寺栄朝上人の事)
校訂本文
1)上野国世良田長楽寺の長老、釈円房律師栄朝上人2)は、かの建仁寺の本願僧正3)の弟子なり。慈悲深く、徳たけて、智行並びなき上人と聞こえき。
去んぬる宝治元年九月二十六日入滅す。かの寺の僧の語りしは、戌時の終りに臨終す。その時、寺中光明あり。灯もなき寮中4)、明らかなりければ、僧ども、「後の物語にも」とて、かの光にて日記なんどしけり。その時の僧に会ひて承りしことなり。寺の近辺の在家人は、「寺に焼亡(じやうもう)のあるにや」とて、走り集りけり。
端座して、印結び、北方に向ひて、安然として化せらる5)。葬の時の作法、座儀平生のごとくして、ありがたくめでたかりけり。
翻刻
上野国世良田長楽寺ノ長老釈円房律師栄朝上人ハ 彼建仁寺ノ本願僧正ノ弟子也慈悲深ク徳タケテ智行ナ ラヒナキ上人ト聞ヱキ去宝治元年九月廿六日入滅彼寺 ノ僧ノ語シハ戌時ノ終リニ臨終其時寺中光明有灯モナキ 察中アキラカ也ケレハ僧共後ノ物カタリニモトテ彼光ニテ日 記ナントシケリ其時ノ僧ニアヒテ承シ事也寺ノ近辺ノ在家/k10-382l
人ハ寺ニ焼亡ノ有ニヤトテ走集リケリ端坐シテ印ムスヒ北方 ニ向テ安然トシテ化セフル葬ノ時ノ作法坐儀平生ノコトクシテ 有カタク目出カリケリ/k10-383r
text/shaseki/ko_shaseki10b-04.txt · 最終更新: 2019/05/05 00:41 by Satoshi Nakagawa