text:myotatsu:ka_myotatsu01
1 妙達の父母
校訂本文
なんぢが母は、阿鼻地獄(あびぢごく)の乾(いぬい)のすみに、四十里の石をいただきて立てり。そのことを言はば、昔、仏の御物1)、僧の物を取り使ひし罪なり。なんぢが父は、地獄の上の巽(たつみ)のすみに、火の柱をいただきて立てり。その罪を言はば、よこさまに女を犯したる罪なり。
ここに妙達、涙を流し、心に堪(た)へがたくして、閻魔王に申さく、「今、功徳を行ふべし。これによりて、父母(ぶも)罪を抜くべし」と申す時に、閻魔王のたまはく、「帰りて法華経を書き供養し奉れ。また、『人をわたさむ』といふ誓ひを起すべし」。この時に、閻魔王のたまはく、「よくよく聞き持(たも)ちて帰るべし。一々に知らせむ」とのたまふ。
翻刻
ミシリテ帰ラムト申時ニ閻魔王ノ給ハクハヤクミルヘシトノ給汝カ/n2-50l・e2-47l
https://dl.ndl.go.jp/pid/1145963/1/50
母ハ阿鼻地獄ノ乾ノ角ニ卌里ノ石ヲイタタキテ立リソノ コトヲイハハ昔仏ノ御(ミ)物僧ノ物ヲトリツカヒシ罪也汝カ父ハ地獄 ノ上ノ巽ノスミニ火ノ柱ヲイタタキテ立リ其罪ヲイハハヨコサ マニ女ヲ(ヲカ)シタル罪也爰ニ妙達涙ヲナカシ心ニタヘカタ クシテ閻魔王ニ申サク今功徳ヲ行ヘシ是ニヨリテ父母罪ヲ ヌクヘシト申時ニ閻魔王ノ給ハクカヘリテ法花経ヲ書供養シ タテマツレ又人ヲワタサムトイフ誓ヲオコスヘシコノ時ニ閻魔王ノ給 クヨクヨク聞タモチテカヘルヘシ一々ニシラセムトノ給/n2-51r・e2-48r
1)
底本「御」に「ミ」と傍書。
text/myotatsu/ka_myotatsu01.txt · 最終更新: 2024/10/02 22:49 by Satoshi Nakagawa