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永始元暦二月河南といふ所に、樗(あふち)の樹、枝をなして人のごとし。頭(かしら)・目・眉・鬚(ひげ)、みな具せり。髪と耳とぞなかりし。上衰へて下強くなるべきしるしとぞ、人々申し侍りし。また星隕(お)ちて雨のごとくなることも侍りき。

綏和二暦、燕(つばくらめ)の雀を生みて、ともに飛びて去りき。また馬に角おひたること侍りき。

三月に、帝¹⁾、未央宮(びあうきう)²⁾にて崩じ給ひぬ。御暦四十六、御在位二十六暦なり。

兄弟妻子宴語(えんぎよ)する時に、朝省の政事に及ばず。ある人、「温省の中の樹は何の木ぞ」と問ふに、孔光答へず。他のことをまぎらはす。世のことことを洩(も)らさざることかくのごとし。今までも、もの言はぬをば、「温樹」とこそは申すめれ³⁾。

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永始元暦二月河南と云所に樗(アフチ)の樹枝(エタ)を成て人の
ことし頭(カシラ)目(メ)眉(マユ)鬚(ヒケ)皆具せり髪と耳とそなかりし
上をとろへて下つよくなるへきしるしとそ人々申侍し
又星隕(オチ)て雨のことくなる事も侍き綏和二暦
燕(ツハクラメ)の雀(ススメ)をうみてともに飛てさりき又馬に角おひ
たること侍き三月に御門未央宮(ヒヤウキウ)にて崩給ぬ御暦
四十六御在位二十六暦なり兄弟妻子宴語(エンギヨ)する時に朝(テウ)省
の政事(セイシ)にをよはすある人温省の中の樹は何の木そ
と問に孔光(コウクワウ)答(コタヘ)す他の事をまきらはす世のこと／s113l・m205

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100182414/viewer/113

ことを洩(モラ)ささることかくのことしいままてもものいはぬ
をは温樹(ヲンシウ)とこそは申めれ／s114r・m206

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100182414/viewer/114