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唐物語
第13話 尭と申す御門おはしましけり・・・(娥皇・女英)
校訂本文
昔、尭1)と申す御門おはしましけり。御政(まつりごと)より始めて、よろづめでたき御世の例(ためし)には、まづこの御事をのみこそ申すめれ。
娥皇・女英と聞こえ給ふ、二人の后さぶらひ給ひけり。御心ざし、いづれも勝り給へりと、けぢめ見えず。ただ、花か紅葉2)などの様に、浅からぬ御事にてなん侍りける。
かくて多くの年月をなむ保たせ給ひけれど、この世は限りある所なれば、御門、湘浦といふ所にて、はかなくならせ給ひぬ。
その後、二人の后(きさき)、紅(くれなゐ)の涙を流し給ひて、古きを思せりければ、籬(まがき)の呉竹も御涙に染まりて、まだらになりにけり。
君恋ふる心の色の深きには竹も涙に染むとこそ聞け
昔の人の思ひそめつる事、浅からぬにや。
翻刻
むかし尭と申御門おはしましけり御まつりこと よりはしめてよろつめてたき御よのためし にはまつこの御事をのみこそ申めれ娥皇女英 ときこえ給二人のきさきさふらひ給けり御心 さしいつれもまさり給へりとけちめみえす たた花か紅葉なとの様にあさからぬ御事にて なん侍けるかくておほくのとし月をなむたも/m336
たせ給けれとこの世はかきりある所なれはみかと 湘浦といふ所にてはかなくならせ給ぬ其後 二人のきさきくれないの涙をなかし給てふる きをおほせりけれはまかきのくれ竹も 御涙にそまりてまたらになりにけり 君こふる心の色のふかきには たけも涙にそむとこそきけ むかしの人の思そめつる事あさからぬにや/m337
text/kara/m_kara013.txt · 最終更新: 2014/11/15 22:00 by Satoshi Nakagawa