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text:jikkinsho:s_jikkinsho06-07

十訓抄 第六 忠直を存ずべき事

6の7 延喜の御代に貫之以下四人の歌仙に仰せて古今集を撰じて後・・・

校訂本文

延喜1)の御代に、貫之2)以下四人の歌仙3)に仰せて、古今集4)を撰じて後、また新撰集5)を撰び奉るべきよし、貫之一人、綸言を奉りたりけるが、いまだ撰び終らぬさきに、延長八年正月に土州の任におもむきて、承平五年、上洛の時、御門、先立ちて崩御のあひだ、件(くだん)の序にいはく、

貫之秩罷帰日、将以上献。橋山晩松、愁雲之影已結、湘浜秋竹、悲風之声忽幽。伝勅之納言忽以薨逝。

と書けるも、かの但馬毛理6)が心の中には、劣らざりけめども、遁世だに及ばず。

なほ、上古の人の心は、思ひとるかた深かりけり。

翻刻

九延喜ノ御代ニ貫之以下四人ノ哥仙ニ仰テ、古今
  集ヲ撰シテ後、亦新撰集ヲエラヒ奉ルヘキ
  由貫之一人綸言ヲ奉リタリケルカ、イマタエラ
  ヒヲハラヌサキニ延長八年正月ニ土州ノ任ニ趣
  キテ承平五年上洛ノ時、帝先立テ崩御ノ間/k39
  件序云、
    貫之秩罷リ帰日将以上献橋山ノ晩ヘノ松愁
    雲之影已結、湘浜ノ秋竹悲風之声忽幽、伝
    勅之納言忽以薨逝
  トカケルモ、彼但毛理カ心ノ中ニハ、ヲトラサリケメ
  トモ遁世タニ及ハス、ナヲ上古ノ人ノ心ハ、思トルカタ
  深カリケリ、/k40
1)
醍醐天皇
2)
紀貫之
3)
紀貫之・紀友則・凡河内躬恒・壬生忠岑
4)
古今和歌集
5)
新撰和歌集
6)
底本「但毛理」。諸本により補う。但馬毛理の話は前話参照。
text/jikkinsho/s_jikkinsho06-07.txt · 最終更新: 2015/12/24 23:28 by Satoshi Nakagawa