text:ise:sag_ise087b
第87段(2) 帰り来る道遠くて失せにし宮内卿もちよしが家の前来るに・・・
校訂本文
帰り来る道遠くて、失せにし宮内卿もちよしが家の前来(く)るに、日暮れぬ。やどりの方を見やれば、海人(あま)の漁火(いさり)する火、多く見ゆるに、かのあるじの男詠む。
晴るる夜の星か河辺(かはべ)の蛍かもわが住むかたの海人のたく火か
と詠みて、家に帰り来ぬ。
その夜、南の風吹きて、波いと高し。つとめて、その家の女(め)の子ども出でて、浮海松(うきみる)の波に寄せられたる拾ひて、家のうちに持て来ぬ。女がたより、その海松(みる)を高坏(たかつき)に盛りて、かしはを覆ひて、出だしたるかしはに書けり、
わたつみのかざしに挿すといはふ藻(も)も君がためには惜しまざりけり
田舎人の歌にてはあまれりや、たらずや。
挿絵
翻刻
かへりくるみちとをくてうせにし宮内卿 もちよしか家のまへくるに日くれ ぬやとりのかたをみやれはあまのいさり する火おほく見ゆるにかのあるしの おとこよむ はるる夜のほしか河辺のほたるかも わかすむかたのあまのたく火か とよみていゑにかへりきぬその夜みな みの風ふきてなみいとたかしつとめて/s101l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/200024817/101?ln=ja
そのいゑのめのこともいててうきみるの なみによせられたるひろひていゑのうち にもてきぬ女かたよりそのみるをたかつ きにもりてかしはをおほひていたしたる かしはにかけり わたつ海のかさしにさすといはふもも きみかためにはおしまさりけり ゐなかひとのうたにてはあまれり やたらすや/s102r
【絵】/s102l
text/ise/sag_ise087b.txt · 最終更新: 2024/02/07 21:18 by Satoshi Nakagawa