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一言芳談抄 巻之下
68 乗願房の云はくさすがに歳のよるしるしには浄土も近く・・・
校訂本文
乗願房(じようがんばう)1)の云はく、「さすがに歳のよるしるしには、浄土も近く、決定往生(けつぢやうわうじやう)しつべきことは、思ひ知られて候ふなり。所詮(しよせん)、真実に往生を心ざし候はんには、念仏は行住座臥を論ぜぬとなれば、ただ一心に、寝ても覚めても、立居起き臥しにも、『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』と申して候ふは、決定往生のつとと2)覚えて候ふなり。
学問も大切なるやうに候へども。さのみ往生の要(かなめ)なることも候はず。また、学(がく)して一つの不審をひらくといへども、するにしたがひて、あらぬ不審のみ出で来たる間、一期(いちご)は不審さばくりにて、心静かに念仏することもなし。しかうして、念仏のたよりにはならで、なかなか大きなる障りにて候ふなり」。
翻刻
乗願房(せうくはんばうの)云。さすがに歳(とし)のよるしるしには。浄土(じやうど)もちかく 。決定往生(けつぢやうおうじやう)しつべき事は。思ひしられて候也。所詮(しよせん) 。真実(しんじつ)に往生を心ざし候はんには。念仏(ねんぶつ)は。行住座臥(きやうぢうざくは) を論(ろん)ぜぬとなれば。ただ一心(しん)に。ねても覚(さめ)ても。たち ゐおきふしにも。なむあみだ仏なむあみだ仏と申て候は。決定(けつぢやう) 往生(わうしやう)のつつとおほえて候なり。学問(がくもん)も大切(たいせつ)なる様(やう)に候/ndl2-6r
へども。さのみ往生(わうじやう)の要(かなめ)なることも候はず。又学(がく)して一 の不審(しん)を被(ひらく)といへども。するにしたがひて。あらぬ 不審(しん)のみいできたるあひだ。一期(ご)は不審(しん)さばく りにて。心(こころ)しづかに念仏(ねんぶつ)する事もなし。然而(しかうして)念仏 のたよりにはならで。中々大なるさはりにて候也/ndl2-6l
text/ichigonhodan/ndl_ichigon068.txt · 最終更新: 2023/09/12 00:29 by Satoshi Nakagawa