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text:towazu:towazu2-11

とはずがたり

巻2 11 九月には御花六条殿の御所の新しきにて栄え栄えしきに・・・

校訂本文

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九月には御花1)、六条殿の御所の新しきにて、栄え栄えしきに、新院2)の御幸(ごかう)さへなりて、「女房たち、あいしに給はらん」など申させ給ふほどに、面々に心ことに出で立ち、ひしめきあはるれども、よろづ物思はしき心地のみして、常はひき入りがちにてのみ侍りしほどに、御花果てて、松取りに伏見の御所へ両院御幸なるに、「近衛大殿3)も御参りあるべし」とてありしに、いかなる御障りにか、御参りなくて、御文あり。

  伏見山いく万代(よろづよ)か栄ふべき緑の小松今日をはじめに

御返し。後の深草の院の御歌。

  栄ふべきほどぞ久しき伏見山生ひそふ松の4)千世を重ねて

中二日の御逗留にて、伏見殿へ御幸なとありて、おもしろき九献(くこん)の御式どもありて、還御。

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翻刻

るこそよしなきおもひもかすかす色そふ心ちし侍れ九月
には御花六条殿の御所のあたらしきにてはえはえしきに
新院の御かうさへなりて女房たちあいしにたまはらん/s77l k2-25

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/77

なと申させ給ほとにめむめむに心ことに出たちひしめきあ
はるれともよろつものおもはしき心ちのみしてつねはひき
入かちにてのみ侍しほとに御はなはてて松とりにふしみの御
所へ両院御幸なるに近衛大殿も御参りあるへしとてあ
りしにいかなる御さはりにか御まいりなくて御ふみあり
   ふしみ山いく万代かさかふへきみとりの小松今日をはしめに
御返し後のふかくさの院の御哥
   さかふへきほとそひさしきふしみ山おいその松の千世をかさねて
なか二日の御とうりうにてふしみ殿へ御幸なと有ておもしろ
き九こんの御しきとも有て還御さてもおととしの七月/s78r k2-26

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/78

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1)
長講堂の供花
2)
亀山院
3)
鷹司兼平
4)
「生ひそふ松の」は底本「おいその松の」。
text/towazu/towazu2-11.txt · 最終更新: 2019/08/07 12:42 by Satoshi Nakagawa