text:tosanikki:se_tosa06
12月26日
校訂本文
二十六日、なほ守の館(たち)にて、饗応(あるじ)しののしりて、郎等(らうどう)までに物かづけたり。漢詩(からうた)声上げ言ひけり。和歌(やまとうた)、主(あるじ)も、客人(まらうど)も、こと人も言ひ合へりけり。
漢詩はこれにえ書かず。和歌、主の守の詠めりける。
都(みやこ)出でて君にあはむと来しものを来しかひもなく別れぬるかな
となんありければ、帰る前(さき)の守1)の詠めりける。
白妙(しろたへ)の波路を遠く行きかひてわれに似べきはたれならなくに
こと人々のもありけれど、さかしきもなかるべし。とかく言ひて、前の守、今のも、もろともに降りて、今の主も、前のも、手とりかはして酔(ゑ)ひ言(ごと)にこころよげなることして、出で入りにけり。
翻刻
廿六日なほかみのたちにてあるししのの しりて郎等まてにものかつけたり からうたこゑあけていひけりやまと うたあるしもまらうともことひとも いひあへりけりからうたはこれに えかかすやまとうたあるしのかみの/kd-8l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/8?ln=ja
よめりける みやこいててきみに あはむとこしものをこしかひもな くわかれぬるかなとなんありけれは かへるさきのかみのよめりけるしろ たへのなみちをとほくゆきかひて われににへきはたれならなくに ことひとひとのもありけれとさかし きもなかるへしとかくいひてさき のかみいまのももろともにおりていまの/kd-9r
あるしもさきのもてとりかはしてゑ ひことにこころよけなることしていて いりにけり/kd-9l
1)
紀貫之
text/tosanikki/se_tosa06.txt · 最終更新: 2023/08/30 11:11 by Satoshi Nakagawa