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沙石集

巻5第15話(51) 夢の中の歌の事

校訂本文

安楽寺の飛梅を、ある武士の郎等、子細も知らずして、枝を折りたりける。その夜の夢に、けだかげなる上臈の、かの御殿の縁にて、詠じ給ひける。

  情けなく折る人つらしわが宿(やど)のあるじ忘れぬ梅の立ち枝(え)を

一、あひ知りたる人の子息の児、粉河の寺1)にて身まかりて後、かの母のもとに使ひける者の夢に見けるは、清き川の流れたるほとりに、秋草の花の色々に咲き乱れて、よろづもの寂しく、わりなき景気せる叢(くさむら)の中に、かの児の声ばかりして、うち詠みける。

  別れ路の中に流るる涙川袖のみひぢてあふよしもなし

かの児、歌も心得、よろづ器量の仁なりしが、思ひかけぬことありて失せにき。母の歎きいふばかりなかりけるころ、かく告げたることのあはれなるよし、かの母語り侍りき。あひ知る人なり。

一、太宰の大弐高遠2)、身まかりて後、ある人の夢に、

  故郷へ行く人もがな告げやらん知らぬ山路に一人迷ふと

翻刻

  夢ノ中歌事
安楽寺ノ飛梅ヲ或武士ノ郎等子細モシラスシテ枝ヲ折タリケ
ル其夜ノ夢ニケタカケナル上臈ノ彼御殿ノ縁ニテ詠シ給ケル
  情ナク折人ツラシ我ヤトノ主シワスレヌ梅ノ立エヲ
一  相知タル人ノ子息ノ児粉河ノ寺ニテ身マカリテ後カ
ノ母ノ本ニ使ケルモノノ夢ニ見ケルハ清キ河ノ流タルホトリニ
秋草ノ花ノ色々ニサキ乱テヨロツ物サヒシクワリナキ景気セル/k5-184l

https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00012949#?c=0&m=0&s=0&cv=183&r=0&xywh=-2591%2C643%2C5375%2C3195

叢ノ中ニ彼児ノコエハカリシテ打詠ケル
  別路ノ中ニ流ルル泪河袖ノミヒチテアフヨシモナシ彼児
歌モ心ヱヨロツ器量ノ仁也シカ思カケヌ事アリテ失ニキ母ノ
歎キ云計ナカリケル此カク告タル事ノアハレナル由カノ母語リ
侍キ相知人也
一  太宰ノ大弐高遠身マカリテ後アル人ノ夢ニ
  フル里ヘ行人モカナ告ヤランシラヌ山路ニヒトリ迷フト/k5-185r

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1)
粉河寺
2)
藤原高遠
text/shaseki/ko_shaseki05b-15.txt · 最終更新: 2018/12/18 23:49 by Satoshi Nakagawa
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