text:jikkinsho:s_jikkinsho06-03
十訓抄 第六 忠直を存ずべき事
6の3 漢の馮昭儀は元帝の御時の官女なり・・・
校訂本文
漢の馮昭儀1)は、元帝の御時の官女なり。園にこめて飼ひ給ひける熊の、放れて、帝の御座近く進み寄れりけるに、昭儀、これを防いで、身をまかせたりければ、熊とどまりたりけるを、左右より人来て、取りてけり。
帝、昭儀にゆゑを問ひ給ふ。「われ聞く、『猛獣は人を得て進まず』。ゆゑに君に近づき奉ることを恐れて、かれにあたる」とぞ申しける。女なれども、「身に代り奉らむ」と思ふ志、深かりけり。
わが朝、奈良の御門の御時、猿沢の池に身を投げし采女2)は、はかなき契を心憂く思ひ入りたるばかりにて、この筋にはあらざりけり。
翻刻
三漢ノ馮昭儀ハ元帝ノ御時ノ官女也、園ニコメ テカヒ給ケル熊ノ、ハナレテ帝ノ御座チカク ススミヨレリケルニ、昭儀是ヲフセイテ身ヲマ カセタリケレハ、熊トトマリタリケルヲ、左右ヨリ 人来テ取テケリ、帝昭儀ニ故ヲ問給ワレキク 猛獣ハ人ヲ得テススマス、故ニ君ニ近ツキ奉 事ヲ恐テ、彼ニアタルトソ申ケル、女ナレトモ身ニ カハリ奉ラムト思フ志シフカカリケリ、我朝奈 良ノ御門御時、サルサハノ池ニ身ヲナケシ宋女 ハハカナキ契ヲ心ウク思入タルハカリニテ、コノ/k34
スチニハアラサリケリ、/k35
text/jikkinsho/s_jikkinsho06-03.txt · 最終更新: 2015/12/18 00:51 by Satoshi Nakagawa