第四 人の上を誡むべき事

ある人いはく、人は慮(おもんばか)りなく、言ふまじきことを口疾く言ひ出だし、人の短を謗り、したること¹⁾を難じ、隠すことを顕(あらは)し、恥ぢがましきことをただす。これら、すべてあるまじきわざなり。

われは何となく言ひ散らして、思ひも入れざるほどに、言はるる人、思ひつめて、いきどほり深くなりぬれば、はからざるに、恥をも与へられ、身果つるほどの大事にも及ぶなり。笑みの中の剣は、さらでだにも恐るべきものぞかし。心得ぬことを悪しざまに難じつれば、かへりて身の不覚あらはるるものなり。

おほかた、口軽(かろ)きものになりたれば、「某(それがし)にそのことな聞かせそ。かの者にな見せそ」など言ひて、人に心をおかれ隔てらるる、くちをしかるべし。また、人のつつむことの、おのづから漏れ聞こえたるにつけても、「かれ離れじ」なと疑はれん、面目なかるべし。

されば、かたがた人の上をつつしむべし。多言、留むべきなり。

  第四 可誡人上事／k138

或人云、人は思んはかりなく云ましき事を口とく云出し、人
の短をそしりたる事を難し、かくす事を顕し、恥かまし
き事をたたす、此等すへて有ましきわさ也、我は何とな
く云散して、思も入さる程に、いはるる人思つめていきと
をり深く成ぬれは、はからさるに恥をもあたへられ、身はつ
る程の大事にも及ふ也、えみの中の釼は、さらてたにも恐
るへき物そかし、心えぬ事をあしさまに難しつれは、還
て身の不覚あらはるる物也、大方口かろきものに成た
れは、某に其事な聞せそ、彼者にな見せそなと云て、人
に心ををかれ隔らるる、口惜かるへし、又人のつつむ事のを／k139

のつからもれ聞たるに付ても、かれ離れしなと疑はれん面
目なかるへし、然れはかたかた人の上をつつしむへし、多言可
留也、／k140