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十訓抄 第三 人倫を侮らざる事

3の12 昔漢の高祖と楚の項羽と秦の世を争ひし時・・・

校訂本文

昔、漢の高祖1)と楚の項羽と、秦の世を争ひし時、あまたの合戦をいたすといへども、つつがなくて、つひに項羽を亡ぼして、天下をとれりしほどに、黥布といふ小臣の、心に背くことありけるを、侮(あなづ)りて、みづから攻め給ふほどに、流矢に当りて失せ給ひにけり。

いづかたにつけても人を侮るまじきなり。すべて賢人も、万慮に一失あり。愚かなる者も、千慮に一徳あり。この千が一の徳を習ひて、かの万か一の失を逃るべし。

これによりて、「智者は空門を破る」ともいふ。「聖人は芻蕘にはかる」ともいへり。この意は、よき人は人を侮らずして、あやしきものにも物を問ひ、学ぶることを恥にせぬなり。ゆゑに、黄帝の牧童の言葉を信じ、徳宗は農夫のいさめをぞ入れ給ひける。「街談巷説の中にも、必ず取るべきことあり」といへり。

翻刻

昔漢高祖ト楚項羽ト秦ノ世ヲ争シ時、アマタノ
合戦ヲイタストイヘトモ、ツツカナクテ、終ニ項羽ヲ亡
シテ天下ヲトレリシ程ニ、黥布ト云フ小臣ノ心ニ背ク事
アリケルヲ、アナツリテミツカラセメ給程ニ、流矢ニア
タリテ失給ニケリ、何方ニ付テモ人ヲアナツルマシキ
也、スヘテ賢人モ万慮ニ一失アリ、愚ナルモノモ、千
慮ニ一徳アリ、此ノ千カ一ノ徳ヲナラヒテ、彼万カ一
ノ失ヲ遁ルヘシ、依之智者ハ空門ヲ破トモ云、聖
人ハ蒭蕘ニハカルトモ云リ、此意ハ吉人ハ人ヲ慢ラ
スシテ、アヤシキモノニモ物ヲ問ヒマナフル事ヲ恥ニ/k129
セヌ也、故ニ黄帝ノ牧童ノ詞ヲ信シ、徳崇ハ農夫
ノイサメヲソ入給ケル、街談巷説ノ中ニモ必取ヘキ
事有ト云リ、/k130
1)
劉邦
text/jikkinsho/s_jikkinsho03-12.txt · 最終更新: 2015/10/23 11:34 by Satoshi Nakagawa
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