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十訓抄 第二 驕慢を離るべき事

2の4 小野小町が少くて色を好みし時もてなされしありさま・・・

校訂本文

小野小町が少(わか)くて色を好みし時、もてなされしありさま、ならびなかりけり。『壮衰記1)』といふ物には、「三皇五帝の妃も、漢王・周公の妻も、いまだこのおごりをなさず」と書きためり。

かかりければ、衣には錦繍のたぐひを重ね、食には海陸の珍を調へ、身には蘭麝を薫じ、口には和歌を詠(なが)め、万の男を賤しくのみ思ひ下し、女御・后に心をかけたりしほどに、十七にて母を失ひ、十九にて父におくれ、廿一にて兄に別れ、廿三にて弟を先立てしかば、単孤無頼の独り人になりて、頼むかたなかりき。

いみじき栄え、日々に衰へ、はなやかなる形、年々にすたれつつ、心かけたるたぐひも、うとくのみありしかば、家は壊れて月の光むなしく澄み、庭は荒れて蓬(よもぎ)のみいたづらに茂し。

かくまでになりにければ、文屋康秀が三河掾にて下りけるにいざなはれて、

  わびぬれば身をうき草の根を絶えてさそふ水あらばいなんとぞ思ふ

など詠みて、次第に落ちぶれゆくほどに、つひには野山にぞさすらひける。

懐旧の心のうちには、悔しきこと多かりけんかし。

翻刻

小野小町カ少テ色ヲ好ミシ時、モテナサレシ有様双ヒナ
カリケリ、壮衰記ト云物ニハ、三皇五帝ノ妃モ漢王周
公ノ妻モイマタ此オコリヲナサスト書タメリ、カカリ
ケレハ衣ニハ錦繍ノタクヒヲ重ネ、食ニハ海陸ノ珎ヲ調
ヘ、身ニハ蘭麝ヲ薫シ口ニハ和哥ヲ詠メ、万ノ男ヲ賤/k107
クノミ思ヒ下シ、女御后ニ心ヲカケタリシ程ニ、十七ニテ
母ヲ失ヒ、十九ニテ父ニヲクレ、廿一ニテ兄ニワカレ、廿三ニテ
弟ヲ先タテシカハ、単孤無頼ノ独人ニ成テ、タノム方
ナカリキ、イミシキサカヘ日々ニ衰ヘ、花ヤカナル形年
年ニスタレツツ、心懸タル類ヒモウトクノミ有シカハ、家ハ
壊テ月ノ光空クスミ、庭ハアレテ蓬ノミ徒ニ茂シ、
カクマテニ成ニケレハ、文屋康秀カ三河掾ニテ下ケ
ルニイサナハレテ、
  侘ヌレハ身ヲウキクサノ根ヲ絶テ、サソフ水アラハイナントソ思フ
ナトヨミテ、次第ニオチフレ行程ニ、終ニハ野山ニソサス/k108
ラヒケル、懐旧ノ心ノウチニハ、悔シキ事多カリケン
カシ、/k109
1)
『玉造小町子壮衰書』のこと。
text/jikkinsho/s_jikkinsho02-04.txt · 最終更新: 2015/10/10 16:23 by Satoshi Nakagawa
CC Attribution-Share Alike 4.0 International
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