text:chomonju:s_chomonju640
古今著聞集 飲食第二十八
640 醍醐の大僧正実賢餅を焼きて食ひけるに・・・
校訂本文
醍醐1)の大僧正実賢、餅を焼きて食ひけるに、きはめたる眠(ねぶ)りの人にて、餅を持ちながら、ふたふたと眠りけるに、前に江次郎といふ恪勤者2)(かくごんしや)のありけるが、僧正の眠りてうなづくを、「われに『この餅食へ』と気色あるぞ」と心得て、走り寄りて、手に持ちたる餅を取りて食ひてけり。
僧正、おどろきて後、「ここに持ちたりつる餅は」と尋ねられければ、江次郎、「その餅は、『はや食へ』と候ひつれば、食べ候ひぬ」と答へけり。僧正、「比興のことなり」とて、諸人に3)語りて笑ひけるとぞ。
翻刻
醍醐大僧正実賢餅をやきてくひけるにきはめたる 眠の人にて餅をもちなからふたふたとねふりけるにまへ に江次郎といふ格近者のありけるか僧正のねふり てうなつくをわれにこの餅くへと気色あるそと 心えて走よりて手にもちたる餅をとりてくひて けり僧正おとろきてのちここにもちたりつる餅は とたつねられけれは江次郎その餅ははやくへと候つ れはたへ候ぬとこたへけり僧正比興のことなりとて 諸人かたりてわらひけるとそ/s499l
text/chomonju/s_chomonju640.txt · 最終更新: 2020/12/22 22:17 by Satoshi Nakagawa