text:chomonju:s_chomonju568
古今著聞集 興言利口第二十五
568 将軍入道殿はじめて上洛の時清水の橋を渡されけるに・・・
校訂本文
将軍入道殿1)、はじめて上洛の時、清水の橋を渡されけるに、いづれの武者の分にてかありけん、白き直垂(ひたたれ)着たる男の、たけだち・事柄さる体なるが奉行してありけるが、文(ふみ)を見て立ちたりけるを、若き女房の清水詣でする者と見えたるが、この男のもとへ立ち寄りて言ひかけける、
たぢろぐか渡しも果てでふみ見るは
と言へりけるを、この男、付けんずる気色(きそく)にて、しばしうち案じけるが、この心や回らざりけむ、大声を出だして、「いかに、将軍の渡らせ給ふ橋をば、たぢろぐかとは」と、とがめければ、恐しくて足早に去りにけり。
翻刻
将軍入道殿はしめて上洛の時清水の橋をわたされ けるにいつれの武者の分にてかありけん白き ひたたれきたる男のたけたちことからさる体なるか 奉行してありけるかふみを見て立たりけるを わかき女房の清水まうてする物と見えたるか 此男のもとへ立よりていひかけける たちろくかわたしもはててふみみるはといへりけるを 此男つけんするきそくにてしはしうちあんしけるか此心 やまはらさりけむおふこゑを出ていかに将軍の渡/s448l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/448
らせ給ふ橋をはたちろくかとはととかめけれはおそ ろしくてあしはやにさりにけり/s449r
1)
藤原頼経
text/chomonju/s_chomonju568.txt · 最終更新: 2020/10/25 18:33 by Satoshi Nakagawa