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text:chomonju:s_chomonju561

古今著聞集 興言利口第二十五

561 縫殿頭信安といふ者ありけり世の中に強盗はやりたりけるころ・・・

校訂本文

縫殿頭(ぬひどののかみ)信安1)といふ者ありけり。世の中に強盗はやりたりけるころ、「もし、け捜さるることもぞ2)ある」とて、強盗を滑らかさむ料(れう)に、日暮るれば、家に管(くだ)といふ小竹のよを多く散らし置きて、つとめては取りひそめけり。

ある夜、参り宮仕ひける公卿の家近く、焼亡(ぜうまう)のありけるに、あはてまどひて出づとて、その管の小竹に滑りてまろびにけり。腰を打ち折りて、年寄りたる者にて、ゆゆしくわづらひて、日数経てぞからくしてよく3)なりにける。

いたく支度のすぐれたるも、身に引きかづくこそをかしけれ。

翻刻

縫殿頭信安といふ物ありけり世の中に強盗は
やりたりける比もしけさかさるる事にそあるとて
強盗をすへらかさむれうに日くるれは家にくたと/s444l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/444

いふ小竹のよをおほくちらしをきてつとめて
はとりひそめけりある夜まいりみやつかひける
公卿の家ちかく焼亡のありけるにあはてまと
ひて出とてそのくたの小竹にすへりてまろひ
にけり腰を打折て年よりたる物にてゆゆ
しくわつらひて日数へてそからくしてよりなり
にけるいたく支度の勝たるも身に引かつくこそ
をかしけれ/s445r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/445

1)
藤原信安か。
2)
「もぞ」は底本「にそ」。諸本により訂正。
3)
「よく」は底本「より」。諸本により訂正。
text/chomonju/s_chomonju561.txt · 最終更新: 2020/10/24 15:10 by Satoshi Nakagawa