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text:chomonju:s_chomonju376

古今著聞集 相撲強力第十五

376 尾張国の住人おこまの権守若かりける時京に宮仕へして侍りけるが・・・

校訂本文

尾張国の住人おこまの権守、若かりける時、京に宮仕へして侍りけるが、ある時、かの主人、行幸供奉のために内裏へ参りける供に侍りけり。

少し遅参したりけるに、陣頭に馬車ひしと立てたるを、分けて参るに、ある舎人、「あやまちせさせ給ふな。この御馬は人を踏み候ふぞ」と言ふを、権守、少しもことともせず、主人より先に進みて、「御馬引きのけよ。馬の足損ずな」と言ひけり。舎人は馬をば直さず、なほ「あやまちせさせ給ふな」と、たびたび言ひけり。

おこま、張り裏の狩衣の、ことにさやめきたるをなん着て、馬の尻にわざと当たらむと通るを、案のごとく馬踏みてけり。腰のほどには当たりぬらむと見えつるに、おこまは少しもことなし。馬はやがて足を損じて、平(ひら)に伏しにけり。その時、おこま立ち帰りて、「さればこそ言ひつれ。その御馬は損じぬるものを」と言ひて通りにけり。

馬の足の損ずるほどに強く当たりたるをことともせでありける、強さのほど恐しきことなり。

翻刻

尾張国住人おこまの権守わかかりける時京に宮仕
して侍けるかある時彼主人行幸供奉のために
内裏へまいりける共に侍けりすこし遅参したり/s273l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/273

けるに陣頭に馬車ひしとたてたるをわけてまいる
に或舎人あやまちせさせたまふなこの御馬は人を
ふみ候そといふを権守すこしも事共せす主人より
さきにすすみて御馬引のけよ馬のあし損すなと
いひけり舎人は馬をはなをさす猶あやまちせさせ
給なとたひたひいひけりおこまはりうらの狩衣
のことにさやめきたるをなんきて馬の尻にわさと
あたらむととをるを案のことく馬ふみてけり腰の
ほとにはあたりぬらむと見えつるにおこまはすこし
も事なし馬はやかてあしを損してひらにふしに
けりその時おこま立帰てされはこそいひつれ/s274r
その御馬はそむしぬる物をといひてとをりにけり馬
の足の損するほとにつよくあたりたるを事とも
せてありけるつよさの程おそろしき事也/s274l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/274



text/chomonju/s_chomonju376.txt · 最終更新: 2020/05/08 22:03 by Satoshi Nakagawa