text:chomonju:s_chomonju295
古今著聞集 術道第九
295 御堂関白殿の御物忌に解脱寺僧正観修陰陽師晴明医師忠明武士義家朝臣参籠して・・・
校訂本文
御堂関白殿1)の御物忌(おんものいみ)に、解脱寺僧正観修・陰陽師晴明2)・医師忠明3)・武士義家朝臣4)参籠して侍りけるに、五月一日、南都より早瓜を奉りたりけるに、「御物忌の中に取り入れられんこと、いかがあるべき」とて、晴明に占はせられければ、晴明占ひて、一つの瓜に毒気候ふよしを申して、一つを取り5)出だしたり。
「加持せられば、毒気あらはれるべし」と申しければ、僧正に仰せて加持せらるるに、しばし念誦の間に、その瓜はたらき動きけり。
その時、忠明に毒気治すべきよし仰せられければ、瓜を取り回し取り回し見て、二所(ふたところ)に針を立ててけり。その後、瓜はたらかずなりにけり。
義家に仰せて、瓜を割らせられければ、腰刀(こしがたな)を抜きて割りたれば、中に小蛇わだかまりてありけり。針は蛇の左右の眼に立ちたりけり。義家、何となく中を割ると見えつれども、蛇の頸(くび)を切りたりけり。
名を得たる人々の振舞ひ、かくのごとし。ゆゆしかりけることなり。このこと、いづれの日記に見えたりといふことを知らねども、あまねく申し伝へて侍り。
翻刻
御堂関白殿御物忌に解脱寺僧正観修陰陽師 晴明医師忠明武士義家朝臣参籠して侍けるに 五月一日南都より早瓜をたてまつりたりけるに御物忌の中に 取入られん事いかかあるへきとて晴明にうらなはせられけ れは晴明うらなひて一の瓜に毒気候由を申て一を とし出したり加持せられは毒気あらはれるへしと申けれ は僧正に仰て加持せらるるにしはし念誦の間にそのうり はたらきうこきけり其時忠明に毒気治すへき由仰られ けれは瓜をとりまわしとりまわしみて二ところに針をたてて けり其後うりはたらかす成にけり義家に仰て 瓜をわらせられけれは腰刀をぬきてわりたれは中に小蛇/s207r
わたかまりてありけり針は蛇の左右の眼に立たりけり 義家なにとなく中をわると見えつれとも蛇の頸を 切たりけり名をえたる人々の振舞かくのことしゆゆし かりける事なり此事いつれの日記に見えたりと云事 をしらねともあまねく申伝て侍り/s207l
text/chomonju/s_chomonju295.txt · 最終更新: 2020/04/12 21:42 by Satoshi Nakagawa