text:chomonju:s_chomonju111
古今著聞集 文学第五
111 蒼波路遠雲千里白霧山深鳥一声・・・
校訂本文
蒼波路遠雲千里 蒼波路遠くして雲千里
白霧山深鳥一声 白霧山深くして鳥一声
この句は橘直幹が秀句にて侍るを、奝然上人入唐の時、「わが作なり」と称しけり。ただし、「雲千里」と侍るを「霞千里」と改め、「鳥一声」をば「虫一声」と直したりけるを、唐人聞きて、「佳句にて侍る。おそらくは、雲千里、鳥一声と侍らば良かりなまし」とぞ言ひける。
さしもの上人の、いかに虚言(そらごと)をばせられけるにか1)。このことおぼつかなし。
翻刻
蒼波路遠雲千里白霧山深鳥一声此句は橘直 幹か秀句にて侍を奝然上人入唐の時わか作なりと 称しけり但雲千里と侍を霞千里とあらため鳥一声 をは虫一声となをしたりけるを唐人ききて佳句にて 侍るおそらくは雲千里鳥一声と侍らはよかりなま しとそいひけるさしもの上人のいかにそらことをは/s90r
せられけるわかこの事おほつかなし/s90l
1)
「にか」は底本「わか」。諸本により訂正。
text/chomonju/s_chomonju111.txt · 最終更新: 2020/02/05 23:00 by Satoshi Nakagawa