text:chomonju:s_chomonju109
古今著聞集 文学第五
109 天暦の御時朝綱文時に仰せられて文集第一の詩選びて奉るべきよし・・・
校訂本文
天暦の御時1)、朝綱2)・文時3)に仰せられて、文集4)第一の詩選びて奉るべきよし、勅定ありければ、
送蕭処士遊黔南5) 蕭処士の黔南に遊ぶを送る
能文好飲老蕭郎 文を能くし飲を好む老蕭郎
身似浮雲鬢似霜 身は浮雲に似て鬢は霜に似たり
生計抛来詩是業 生計抛(なげう)ち来たりて詩はこれ業なり
家園忘却酒為郷 家園を忘却し酒を郷と為す
鴻従巴峡初成字 鴻は巴峡より初めて字を成す
猿過巫陽始断腸 猿は巫陽を過ぎて始めて腸を断つ
不酔黔中争得去 酔はざれば黔中いかでか去ることを得ん
摩囲山月正蒼々 摩囲山の月正に蒼々たり
この四韻をともに選び奉りたりけり。一句優れたるは多けれども、四句の体(てい)異なるによりて、ありがたきことにや。両人同心のほど、興あることなり。
翻刻
天暦御時朝綱文時におほせられて文集第一詩えらひ てたてまつるへきよし勅定ありけれは 送蕭処士遊點南 能文好飲老蕭郎身似浮雲鬢似霜生計抛来詩是業 家園忘却酒為郷 鴻従巴峡初成字猿過巫陽始断腸 不酔黔中争得去 摩囲山月正蒼々 この四韻をともにえらひたてまつりたりけり一句すくれ たるはおほけれとも四句体ことなるによりてありかたき事 にや両人同心の程興あることなり/s89l
text/chomonju/s_chomonju109.txt · 最終更新: 2020/02/04 13:22 by Satoshi Nakagawa