走り出すまで(杭州)
今回のメンバーは3人。僕、前回いっしょに走った通称金すて番長T、大学院生Aの三人。さらに、一緒に走らなかったが、杭州に留学しているKさんにはずいぶん世話になった。
予定では8月3日に僕とAが上海に上陸し、5日に杭州集合、自転車購入後、8日出発、太湖の東がわを回り、長江の南を南京にむけて走り、18日に南京に到着するはずだったのだが・・・。
8月3日、僕とA君は、二人で上海へ行き、Kさんと空港で会う手筈になっていた。しかし、つまづきは成田から始まった。
なにしろ、ビンラーディンのおかげでチェックが厳しいこと厳しいこと。ナイフなどがだめなのは分っていたが、工具も持ち込みできない1)。しかたなく、機内あずかりのAの荷物2)に、ビクトリノックスと自転車用工具をつめてもらうことにした。
ところが、僕は一つだけ別に工具を入れておいたのを忘れていた。当然金属探知機でひっかかってしまう。やむをえず、Aにチェックインカウンターへ戻ってもらい、その工具だけ荷作りしてもらい、別に機内あずかりにしてもらった。
その工具は無事、上海浦東空港に着いた。ちょうど、ミスタードーナッツの箱ぐらいの中に、一枚のペダルレンチ3)が・・・。カラカラカラ・・・・。悲しい気持になった。
さて、前回2000年の旅のとき、北京空港のゴミバコに両替したばかりの人民元を捨てるという、とんでもないはなれわざをしたTと合流したのは8月5日だ。今回は何をやってくれるのかなと期待していると・・・
やっぱり、やってくれました4)。
なんと、集合場所の「杭州」のチケットが「広州」になっていたのだ5)。
日本語では同じ「コウシュウ」だが中国語の発音6)も、場所7)もまったくちがう。
しかし、そこはミスにはなれているTさん、自力でカバー。っていうか、来る前に気づけよ!予定より一時間おくれで到着。実は旅行代理店のミスなのだが、あまりにTさんらしい。
それだけじゃない、Tさんは初手からやってくれること、やってくれること。
到着したTの話によると、青島で海水浴をしていたら靴を盗まれたという。はだしで靴を買いにいったらしい。あまりにマヌケだ。
さらに、その青島で会う筈の留学生は帰省して日本にいたため会えなかった。何のために別行動で青島に行った?先行き不安がつのる。
杭州では、Tは買い物番長と化した。何がいけないって、Kさんがとってくれたホテルが夜市の近くだったのだ。僕もTも夜市が大好きなのだ。
夜市は毎晩たつのだが、食後に毎晩行く。それでも、僕が買ったものなんて、子供服の尻割れパンツだの、毛沢東時計だの、かわいいものだ。Tは急須8)だの、印材9)だの高価で重いものを買いまくる。それも、これから急須の本場、宜興へ行くのに・・・。
杭州に到着して、数日でTの荷物は20キロを超えてしまった。これではしかたがないので、日本へ郵便で送ったのだが、それでも送りきれない荷物が10キロ以上。自転車で運べない荷物ではないが、持っていてもしかたがない荷物、しかも壊れ物を持っていくのはどういう了見だ。
それじゃあ。Aは何の問題もなかったかというと、そうではない。ある意味でこいつが一番とんでもない。なにしろ、初日の上海のホテルからとんでもないことをいいだす。
「僕、痛風なんですよ」
聞いてないよ。自転車は水分を多く消耗するスポーツだ。痛風の発作をおこしやすい。痛風の発作は足にくるらしい。ペダルが踏めないではないか。
やたらと沢山荷物を持ってきたAだったが、荷物の中身は・・・・タオル、タオル、タオル、
そんなに汚れっぽいのかお前は!10)
さらに数日後、Aは杭州で体調を崩し、ホテルで寝たきりになる。おかげで出発が二日も遅れてしまい、8月8日出発の予定が10日になってしまった。
Aはその後も体調がすぐれず、おいしいところはすべてホテル。おまけに、日本に帰ってから高熱を出してしまった。
自転車の購入もなかなか苦労した。Kさんに前もって杭州市内の自転車屋を調べておいてもらったのだが、現在の中国では、アシストサイクルもどきの電動自転車が大流行していて、その店にはMTBが置いていなかったのだ。
ちなみにこの電動自転車、おととしの中国旅行のときすでにあったのだが、これは、あくまでも日本のアシストサイクルにそっくりの形をしていた。違うのはまったくペダルを踏まなくても進むということである。だから、アシストサイクルというよりは、モペットに近い。
そうなってくると「自転車の形をしていなくてもいいじゃーん」となるわけで、今回見た電動自転車は、かなりスクーターに近い形になっていた。
このままだとペダルがなくなっちゃうんじゃないだろうか11)。そうしたら免許がいるのか?う~んわからん。
自転車の購入に話をもどそう。いい自転車屋がみつからないので、こまっていると、交差点でメッセンジャーのような男が休憩をしていた。なかなかいい自転車に乗っている。ならば、どこで買ったか教えてもらうよりない。
男に教えてもらった自転車屋は、そこから数キロほどいったところだった。前回の北京前門自行車店のような大きな店ではなく、こじんまりとした小さな店だが、スポーツバイク専業である。
しかも、ダウンヒル(山道を駆け下りる)やトライアル(複雑な地形を制覇する)が中心のようだ。メーカーもスペシャライズド GTのような高級ブランドが多く、これはちょっと値がはりそうだ。
僕たちが買ったのは「MIGARU」という名前の純中国製のMTB。800元(12000円ぐらい)だから、前回の旅から比べるとかなり高い。しかし、さすがは「ミガル」と名乗るだけのことはある、アルミフレームで軽いし、形もダウンチューブが太い今流行のスタイルだ。リヤディレーラーは定番シマノで信頼性が高い。そして、うれしいのがタイヤにセミスリックを履いていることだ。走行距離も短いし、ほとんど国道を走る今回の旅はかなり楽だろう。
走行距離が短いので、この値段はちょっとためらわれたが、300元ぐらいでは売れるというので、おもいきって買うことにした。TとAがフロントサス付き、僕がリジットである。