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世継物語
第28話 源中将のぶたかといふ人一条院の御時弘徽殿女御の御方に・・・
校訂本文
今は昔、源中将のぶたか1)といふ人、一条院の御時、弘徽殿女御の御方に、「打臥の巫女(うちふしのみこ)」といひける、巫(かうなぎ)の女(むすめ)の侍りけるを、いみじう思はれけり。
中宮の御方に参りて、女房達に会ひて物語などして、時々御宿直(とのゐ)などつかうまつりけれども、女房達もてなさせ給はねば、いと宮仕をろかにさぶらふ。
「宿直所をだに給りたらば、まめに侍る」など言ひ居給へりければ、人々、「げに」など言ひたるに、清少納言、「まことに、人はうち臥し、休む所のあるこそよけれど、さるあたりには、しげくまいり給ふなる物を」と、さし答(いら)へしたりければ、「すべて物きこえじ。方人と頼みきこえたれば」など、まめやかに怨(ゑん)じ給ふ。いかなる事をかは申つるほど、思はで給ふやうにぞあらめ。
さて花やかに笑ふこそ。その後、絶えてやみ給ひにけりとこそ。
翻刻
今は昔源中将のふたかと云人一条院御時こき殿女 御の御方にうちふしの御こといひけるかうなきのむす めの侍けるをいみしう思はれけり中宮の御かたにま いりて女房達にあひて物語なとして時々御とのゐ なとつかうまつりけれとも女房達もてなさせ給は/15ウ
ねはいと宮仕をろかにさふらふ宿直所をたに給りたら はまめに侍なといひゐ給へりけれは人々けになといひた るに清少納言誠に人はうちふし休所の有こそよけ れとさるあたりにはしけくまいり給なる物をとさしい らへしたりけれはすへて物きこえし方人とたのみきこえ たれはなとまめやかにゑんし給いかなる事をかは申つる ほとおもはて給やうにそあらめさて花やかにわらふ こそ其のちたえてやみ給にけりとこそ/16オ
1)
枕草子「宣方(のぶかた)」
text/yotsugi/yotsugi028.txt · 最終更新: 2014/09/25 02:25 by Satoshi Nakagawa