text:yomeiuji:uji159
宇治拾遺物語
第159話(巻12・第23話)水無瀬殿の鼯の事
水無瀬殿鼯事
水無瀬殿の鼯の事
校訂本文
後鳥羽院1)の御時、水無瀬殿に、夜々(よるよる)山より唐傘ほどなる物の光りて、御堂へ飛び入ること侍りけり。
西面(にしおもて)、北面(きたおもて)の者ども、面々に、「これを見あらはして高名せん」と、心にかけて用心し侍りけれども、むなしくてのみ過ぎけるに、ある夜、景賢(かげかた)2)ただ一人、中島に寝て待ちけるに、例の光り物、山より池の上を飛び行きけるに、起きんも心もとなくて、あふのきに寝ながら、よく引きて射たりければ、手ごたへして、池へ落ち入る物ありけり。
その後、人々に告げて、火を灯して、面々見ければ、ゆゆしく大きなるむささびの、年古(ふ)り、毛なども禿げ、しぶとげなるにてぞ侍りける。
翻刻
後鳥羽院の御時水無瀬殿に夜る夜る山よりから笠程なる物の光て 御堂へ飛入事侍けり西おもて北おもての物共めんめんにこれを 見あらはして高名せんと心にかけて用心し侍けれともむなしくて のみ過けるにある夜景かたたたひとり中島にねて待けるに例の ひかり物山より池のうへを飛行けるにおきんも心もとなくてあふの きにねなからよく引て射たりけれは手こたへして池へ落入物 ありけり其後人々につけて火をともしてめんめんみけれはゆゆしく 大なるむささひのとしふり毛なともはけしふとけなるにてそ侍ける/下65ウy384
text/yomeiuji/uji159.txt · 最終更新: 2019/10/26 01:06 by Satoshi Nakagawa