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宇治拾遺物語
第80話(巻5・第11話)仲胤僧都、地主権現説法の事
仲胤僧都地主権現説法事
仲胤僧都、地主権現説法の事
校訂本文
これも今は昔、仲胤僧都を、山1)の大衆、日吉の二の宮にて法華経を供養しける導師に請じたりけり。
読経えもいはずして、はてがたに、「地主権現の『申せ』と候(さぶら)ふは」とて、「此経難持、若暫持者、我即歓喜、諸仏亦然」といふ文を打ち上げて誦して、「諸仏」といふ所を、「地主権現の申せと候は、我即歓喜、諸神亦然」と言ひたりければ、そこら集まりたる大衆、異口同音にあめきて、扇を開き使ひたりけり。
これをある人、日吉社の御正体を現はし奉りて、おのおの、御前にて、千日の講を行ひけるに、二宮の御料(れう)の折、ある僧、この句を少しも違(たが)へずしたりけるを、ある人、仲胤僧都に、「かかることこそありしか」と語りければ、仲胤僧正2)、きやうきやうと笑ひて、「これは、かうかうの時、仲胤がしたりし句なり。えいえい」と笑ひて、「おほかたは、このごろの説経をば、『犬の糞(くそ)説経』と言ふぞ。犬は人の糞を食ひて、糞をまるなり。仲胤が説法を取りて、このごろの説経師はすれば、『犬の糞説経』と言ふなり」とぞ言ひける。
翻刻
これも今はむかし仲胤僧都を山の大衆日吉の二宮にて 法花経を供養しける導師に請したりけり読経えもい はすしてはてかたに地主権現の申せとさふらふはとて此経難 持若暫持者我即歓喜諸仏亦然といふ文を打上て 誦して諸仏といふ所を地主権現の申せと候は我即歓喜諸神 亦然といひたりけれはそこらあつまりたる大衆異口同音に あめきて扇をひらきつかひたりけりこれをある人日吉社の 御正体をあらはしたてまつりて各御前にて千日の講をおこなひ けるに二宮の御れうのおりある僧この句をすこしもたかへすしたり/84オy171
けるをある人仲胤僧都にかかる事こそありしかと語けれは仲胤 僧正きやうきやうと笑てこれはかうかうの時仲胤かしたりし句也えいえいと わらひて大かたはこの比の説経をは犬のくそ説経といふそ犬 は人の糞を食てくそをまる也仲胤か説法をとりてこの 比の説経師はすれは犬のくそ説経といふ也とそいひける/84ウy172
text/yomeiuji/uji080.txt · 最終更新: 2018/05/12 19:21 by Satoshi Nakagawa