text:takafusa:s_takafusa032
32 わが思ふ君がすみかを月や知る影のいたらぬくましなければ
校訂本文
かくて、かきこもりたる心の内には、何となく来(き)し方行く先のことも思ひ続けらるれば、いとどまぎるるかたもなく悲しくて、夜もすがら目も合はぬままに、宿の妻戸(つまど)を押し開けたれば、二十日あまりの月、くまなく差し入りたるにつけても、なぐさむかたなし。また、をりしも文(ふみ)など持て行(い)きし人などもなければ、いづこにありとだに知られで経るほどの心細さは、ましてなぐさむかたなきに、「月日の光は行かぬ方(かた)なければ、恋ひしき人の行方(ゆくゑ)もくもりなくや」と思ひ続けて、
わが思ふ君がすみかを月や知る影のいたらぬくましなければ
翻刻
かくてかきこもりたる心のうちに はなにとなくきしかたゆくさ きのこともおもひつつけらるれは いととまきるるかたもなくかな しくてよもすからめもあはぬ ままにやとのつまとををしあけ たれは廿日あまりの月くまなく/s18r
さしいりたるにつけてもなくさ むかたなしまたおりしもふみ なともていきし人なともなけれは いつこにありとたにしられて ふるほとのこころほそさはまして なくさむかたなきにつきひの ひかりはゆかぬかたなけれはこひ しき人のゆくゑもくもりな くやとおもひつつけて わかおもふきみかすみかを月やしる/s18l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100002834/18?ln=ja
かけのいたらぬくましなけれは/s19r
text/takafusa/s_takafusa032.txt · 最終更新: 2024/03/21 11:15 by Satoshi Nakagawa