text:takafusa:s_takafusa008
8 迷ひぬる心の闇の暗ければ明くるも知らぬ今朝の帰り路
校訂本文
あながちに恨むれば、「今宵さらば」と契りて後、暮れを待ちし久しさは、千年(ちとせ)を経る心地なるべし。さて、待ちえたる心の内のやるかたなさ、いひ知らず。小夜更け、人しづまりて後なれば、月の西に傾(かたぶ)くを見るにつけて、明けゆくも、かきくらす心には知らざりければ、具したる人の、「いかにや、明け過ぎぬ」と告ぐる折、急ぎ帰るあさましさに、
迷ひぬる心の闇の暗ければ明くるも知らぬ今朝の帰り路(ぢ)
翻刻
あなかちにうらむれはこよひ さらはとちきりてのちくれを まちしひさしさはちとせを ふる心ちなるへしさてまちえたる 心のうちのやるかたなさいひしら すさよふけ人しつまりてのち なれは月のにしにかたふくを/s10r
みるにつけてあけゆくも かきくらす心にはしらさ りけれはくしたる人のいかに やあけすきぬとつくるをり いそきかへるあさましさに まよひぬるこころのやみのくらけれは あくるもしらぬけさのかへりち/s10l
text/takafusa/s_takafusa008.txt · 最終更新: 2024/03/08 17:00 by Satoshi Nakagawa