text:mumyosho:u_mumyosho046
目次
無名抄
第46話 依秀句心劣する事
校訂本文
依秀句心劣する事
円玄阿闍梨といひし人の歌に、
夕暮に難波の浦を眺むれば霞に浮ぶ沖の釣舟
この歌は優(いう)なれど、主(ぬし)の心劣りせらるる歌なり。その故(ゆゑ)は、「霞に浮ぶ沖の釣舟」といへる、わりなきふしを思ひ寄りなんにとりては、いかが「夕暮に難波の浦を眺むれば」といふ上の句をば置かむ。まことに無念に見所もなき詞続(ことばつづ)きなりかし。
同じ浦なりとも、夕暮なりとも、めづらしきやうに思ふところありて続く方も侍りなん物を、さほど手づつにて、いかにして下の句をば思ひ寄りけるにかと思え侍るなり。
翻刻
依秀句心劣スル事 円玄阿闍梨といひし人の哥に ゆふくれになにはの浦をなかむれは 霞にうかふおきのつりふね この哥はいふなれとぬしの心をとりせらるる哥也 そのゆへはかすみにうかふおきのつりふねと いへるわりなきふしをおもひよりなんにとりては いかかゆふくれになにはの浦をなかむれはといふかみの 句をはをかむまことに無念に見所もなき/e39r
ことはつつき也かしをなし浦なりともゆふ くれなりともめつらしきやうにおもふところあり てつつくかたも侍なん物をさほと手つつにて いかにして下の句をはおもひよりけるにかとおほ え侍也/e39l
text/mumyosho/u_mumyosho046.txt · 最終更新: 2014/09/25 14:59 by Satoshi Nakagawa