text:mumyosho:u_mumyosho044
目次
無名抄
第44話 歌詞の糟糠
校訂本文
歌詞の糟糠
二条中将(雅経1))談りていはく、「歌には、この文字のなくもがなと思ゆることのあるなり。兼資といふ者の歌に、
月は知るや憂き世の中のはかなさを眺めてもまたいくめぐりかは
これはよろしく詠めるにとりて、『世の中』の『なか』といふ二つ文字がいみじう悪(わろ)きなり。ただ、『憂き世のはかなさ』をといはまほしきなり。
また、頼政卿の歌に、
澄みのぼる月の光に横切れて渡るあきさの音の寒けさ
これも『ひかり』といふ三文字の悪きなり。『月に横切れて』とあらば、今少しきらきらしく聞こゆべきなり。この詞をば歌の中の傷とやいふべからむ。深く思ひ思ひ入れざらん人はわきまへがたし」。
翻刻
哥詞ノ糟糠/e37r
二条中将(雅経)談云哥にはこの文字のなくも かなとおほゆることのあるなり兼資といふ物の哥に 月はしるやうき世の中のはかなさを なかめても又いくめくりかは これはよろしくよめるにとりて世の中のなかと いふふたつの文字かいみしうわろき也たたうき 世のはかなさをといはまほしき也 又頼政卿の哥に すみのほる月のひかりによこきれて わたるあきさのをとのさむけさ/e37l
これもひかりといふ三文字のわろき也月によこ きれてとあらは今すこしきらきらしくきこ ゆへきなりこの詞をは哥のなかのきすとや いふへからむふかくおもひいれさらん人はわき まへかたし/e38r
1)
底本割注
text/mumyosho/u_mumyosho044.txt · 最終更新: 2014/09/24 13:34 by Satoshi Nakagawa