text:mumyosho:u_mumyosho028
目次
無名抄
第28話 俊頼歌を傀儡歌ふ事
校訂本文
俊頼歌をくぐつうたふ事
富家の入道殿に、俊頼朝臣候ひける日、かがみの傀儡(くぐつ)ども参りて歌つかうまつりけるに、神歌になりて、
世の中はうき身に添へる影なれや思ひ捨つれど離れざりけり
この歌を歌ひ出でたりければ、俊頼、「至り候ひにけりな」とて居たりけるなん、いみじかりける。
永縁僧正、このことを伝へ聞きて、羨みて、琵琶法師どもを語らひて、さまざま物取らせなどして、わが詠みたる、「いつも初音の心地こそすれ」といふ歌を、ここかしこにて歌はせければ、時の人、「ありがたき数寄人(すきびと)」となん言ひける。
今の敦頼入道、またこれを羨ましくや思ひけん、物も取らせずして、盲(めくら)どもに「歌へ歌へ」と責め歌はせて、世の人に笑はれけりと。
翻刻
俊頼哥ヲククツウタフ事 ふけの入道殿に俊頼朝臣候ける日かかみの くくつともまいりて哥つかうまつりけるにかみ哥になりて 世中はうき身にそへるかけなれや おもひすつれとはなれさりけり この哥をうたひいてたりけれは俊頼いたり候 にけりなとてゐたりけるなんいみしかりける永縁/e26r
僧正このことをつたえききてうらやみてひはほうし ともをかたらひてさまさま物とらせなとして我よみ たるいつもはつねの心ちこそすれといふ哥をここかしこ にてうたはせけれはときの人ありかたきすき人と なんいひける今のあつより入道又これをうらやまし くやおもひけん物もとらせすしてめくらともにうた へうたへとせめうたはせて世の人にわらはれけりと/e26l
text/mumyosho/u_mumyosho028.txt · 最終更新: 2014/09/16 14:47 by Satoshi Nakagawa