ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:mumyosho:u_mumyosho005

無名抄

第5話 晴歌可見合人事

校訂本文

晴歌可見合人事

晴の歌は必ず人に見せ合はすべきなり。我心一つにて、誤りあるべし。

予、そのかみ、高松の女院の北面(きたおもて)に菊合といふこと侍りしとき、恋の歌に、

  人知れぬ涙の河の瀬を早みくづれにけりな人目つつみは

と詠めりしを、いまだ晴の歌など詠み慣れぬほどにて、勝命入道に見せ合はせ侍りしかば、「この歌、大きなる難あり。御門・后の隠れ給ふをば『崩ず』といふ。その文字をば『くづる』と読むなり。いかでか院中にて詠まん歌に、この言葉据うべき」と申し侍りしかば、あらぬ歌を出だしてやみにき。

その後、ほどなく女院隠れおはしましにき。この歌のさとしとぞ、沙汰せられ侍らまし。

翻刻

晴哥可見合人事
はれの哥はかならす人にみせあはすへきなり我心ひ/e7r
とつにてあやまりあるへし予そのかみたかまつの
女院のきたおもてにきくあはせと云こと侍しとき
恋の哥に
  人しれぬなみたの河のせをはやみ
    くつれにけりな人めつつみは
とよめりしをいまたはれの哥なとよみなれぬほと
にて勝命入道にみせあはせ侍しかは此哥おほき
なる難ありみかときさきのかくれ給をは崩すと
いふその文字をはくつるとよむなりいかてか院中
にてよまん哥にこのことはすうへきと申侍しかは/e7l
あらぬ哥をいたしてやみにきそののちほとなく
女院かくれをはしましにき此哥のさとしとそ
さたせられ侍らまし/e8r
text/mumyosho/u_mumyosho005.txt · 最終更新: 2014/09/13 18:20 by Satoshi Nakagawa