text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka14-46
蒙求和歌
第14第46話(246) 馮煖折券
校訂本文
馮煖折券
馮煖は斉の人なり。家貧しく、乏(とも)しくして、孟嘗君をより頼みけり。
孟嘗君、薛といふ所に、人に物を多く貸し預けたることありけり。馮煖を使(つかひ)として、薛に行きて、債主の者を責め、納めて、わがもと1)に無からむ物を、市にて買ひて来たれ」と言ひければ、ことうけて、薛へ赴きにけり。
債主を呼びて、券どもを、しかしながら取り集めて、焼き失ひてけり。人みな万歳を呼ばふ。喜ぶことかぎりなし。
馮煖、帰り来たりて、「君がもとに無きものを買ひてなむ詣で来たる」と言ふ。「何を買ひたるぞ」と問ふに、「義を買ひて侍(はんべ)るなり」と言ふ。「義といふはいかなるものぞ」と問ふに、答へていはく、「君、府蔵に財物満ち積める。無き物は、ただ義のみなり。これによりて、債主、券をかき失なひつるに、君喜ぶことかぎりなし。このゆゑに、義を買ひて、君に授くるなり」と答へければ、孟嘗君、「いみじく嬉し」と笑ひけり2)。
債主とは、物負ほせたる人なり。
宿(やど)ごとに年のせめてやなげかまし春の使(つかひ)のかからざりせば
翻刻
馮煖(ヱム)折券(クヱム) 〃〃ハ斉ノ人也家マツシクトモシクシテ孟/嘗君ヲヨリタノミケリ孟嘗君薛(ヘキ)トイフ トコロニ人ニモノヲヲホクカシアツケタルコトアリケリ馮煖ヲツカヒト シテ薛ユキテ債(セイ)主ノモノヲセメヲサメテワカモノトニナカラム モノヲ市ニテカヒテキタレトイヒケレハコトウケテ薛ヘヲモムキ ニケリ債主ヲヨヒテ券トモヲシカシナカラトリアツメテヤ キウシナヒテケリ人ミナ万歳ヲヨハフヨロコフコトカキリナシ 馮煖カヘリキタリテ君カモトニナキモノヲカヒテナムマフテ キタルトイフナニヲカイタルソトトフニ義ヲカヒテハムヘルナリ トイフ義トイフハイカナルモノソトトフニコタヘテイハク君府蔵ニ/d2-54r
財物ミチツメルナキモノハタタ義ノミナリコレニヨリテ債 主券ヲカキウシナヒツルニ君ヨロコフコトカキリナシコノユヘニ義 ヲカヒテ君ニサツクルナリトコタヘケレハ孟嘗君イミシクウレ シトヲラヒケリ債主トハモノヲホセタル人ナリ ヤトコトニトシノセメテヤナケカマシ ハルノツカヒノカカラサリセハ/d2-54l
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka14-46.txt · 最終更新: 2018/04/09 23:28 by Satoshi Nakagawa