text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka14-29
蒙求和歌
第14第29話(229) 王承魚盗
校訂本文
王承魚盗
王承、字(あざな)をば安朝といふ。東海郡守なり。
小吏の池の魚、盗むありけり。網紀、之を権(はか)る。王承がいはく、「文王の園(その)は衆と共に同じ1)。魚惜しむべきにあらず」とて、なだめつ。
また、夜(よ)を犯せる者を召し捕りて来たれり。その人を問ふに、「われ、師のもとに行きて書を読むほどに、日の暮るるを忘れて、夜(よ)に入りて、行きかかれるなりと言へる」と言へり。文を好める心ざしを讃めて、甯越を鞭撻して威名を立てむこと、致化の本に非ず」と言ひて、使ひを添へて、家に帰しおいてけり。
「網紀之を権る」といへるは、網紀は主簿なり。主簿をしてこれを宣(の)るなり。犯夜といへるは、唐土(もろこし)には、夜、人の里に至れるをば、犯しをなす2)といへり。
甯越は中牟の3)鄙人なり。田舎わたらひしつつ、田作る道を憂きことに思ひて、まぬかれむことを友達に言ひ合はするに、「文を学ぶにはしかじ、三十歳して至りなむ」と言ひけり。甯越がいはく、「人はまさに休み4)、われはまさに休まじ。人はまさに臥せり、われはあへて臥さじ5)。十五歳にして至りてむ」と言へり。つひに十五歳にして、周公の師となる。またいはく、「人はまさに寝、われは寝(い)ねじ。人はまさに食し、われは食さじ。
春風に吹き来ざりせば深からん池のつららを誰かとはまし
翻刻
王承魚盗 〃〃字ヲハ安朝トイフ東海郡守也小/吏ノ池ノ魚ヌスムアリケリ網紀権(ハカル)之ヲ王 承カイハク文王ノソノハ与衆(シフヲ)シト共ニ同シ魚ヲシムヘキニアラスト テナタメツ又ヨヲヲカセルモノヲメシトリテキタレリソノ人ヲトフニ ワレシノモトニユキテ書ヲヨムホトニ日ノクルルヲワスレテヨニ入リ テユキカカレルナリトイヘルトイヘリ文ヲコノメル心サシヲホメテ 鞭撻シテ甯越(エツヲ)立(テムコト)威名ヲ非スト致化之本トニイヒテツカヒヲ ソヘテ家ニカヘシヲイテケリ 網紀権之トイヘルハ網紀ハ主簿ナリ主簿ヲシテ宣之 ナリ犯夜トイヘルハモロコシニハ夜ル人ノ里ニイタレルヲハヲカシヲナム トイヘリ甯越ハ中牟(ホウハ)鄙(ヒ)人也ヰナカワタラヒシツツ田ツクルミチ ヲウキコトニヲモヒテマヌカレムコトヲトモタチニイヒアハスルニ文ヲ マナフニハシカシ卅歳シテイタリナムトイヒケリ甯越カイハク 人ハマサニヤスシワレハマサニヤスマシ人ハマサニフセリワレハアヘテ□ラシ/d2-48l
十五歳ニシテイタリテムトイヘリツイニ十五歳ニシテ周公 師トナル又云人ハマサニ寝ワレハイネシ人ハマサニ食シワレハ不食 春風ニフキコサリセハフカカラン イケノツララヲ誰カトハマシ/d2-49r
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka14-29.txt · 最終更新: 2018/04/01 15:11 by Satoshi Nakagawa