text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka05-13
蒙求和歌
第5第13話(83) 董永自売
校訂本文
董永自売
董永、いとけなくて、母におくれて、家貧しかりければ、田を作りて、世を渡りて、一人の父を養ひけり。父の一人家にあらむことを心苦しく思ひて、少車1)に乗せて、田のほとりに具して行きて、木の下陰(したかげ)に据ゑて、みづから田を作りけり。
父、死て後、思ひわびつつ身を売りて、一万の銭を得て、わざのことを終へて、帰る道に、一人の女会へり。見目・形、いひし知らず、たぐひなきほどなりけり。女、進みて言ひ寄りて、董永か妻(め)になりて、一月に縑(かとり)三百疋を織りて、身を売りし価(あたひ)を償(つぐの)はせて、董永を受け出だして、家に帰り住みて、一人の子を生みてけり。仲舒2)といふ。
後に、「われは天の織女なり。天帝、なんぢが孝養の心ざしを讃めて、身を売りし価(あたひ)を償(つぐの)はせむためにつかはして、契り結ぶといへども、下界に久しく住むべき身にあらず」と言ひて、泣く泣く別れ去りにけり。
ははき木のあとをとはれぬ身なりせば一人伏せ屋に沈み果てまし
翻刻
董(トウ)永(エイ)自(シ)売(ハイ) 〃〃イトケナクテ母ニヲクレテ家マツシカリケレハ田ヲツク リテヨヲワタリテヒトリノチチヲヤシナヒケリチチノヒトリ 家ニアラムコトヲココロクルシク思テ少車(チヰサキクルマニ)乗テ田ノホトリニ クシテユキテ木ノシタカケニスヱテミツカラ田ヲツクリケリ 父死テ後ヲモヒワヒツツミヲウリテ一万ノセニヲエテワサノ コトヲヲヘテカヘルミチニヒトリノ女アヘリミメカタチイヒシシ ラスタクヒナキホトナリケリ女ススミテイヒヨリテ董永カ メニナリテ一月ニカトリ三百疋ヲヲリテミヲウリシアタヒヲツ クノハセテ董永ヲウケイタシテ家ニカヘリスミテヒトリノ 子ヲウミテケリ仲舒(チウシヨ)ト云後ニ我ハ天ノ織女ナリ天帝 汝カ孝養ノココロサシヲホメテミヲウリシアタヒヲツクノハセムタメニ ツカハシテチキリムスフトイヘトモ下界ニヒサシクスムヘキミニ アラストイヒテナクナクワカレサリニケリ/d1-41l
ハハキキノアトヲトハレヌミナリセハヒトリフセヤニシツミハテマシ/d1-42r
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka05-13.txt · 最終更新: 2018/10/24 02:25 by Satoshi Nakagawa