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目次
蒙求和歌
第5第1話(71) 紀瞻出妓
校訂本文
紀瞻出妓
尚書紀瞻が家に、あまたの妓女(まひひめ)ありけり。王導1)・周顗、及びもろもろの朝士、ひきつれて、紀瞻が家に行きにけり。紀瞻、妓女をさまざま飾りととのへて、取り出だしてけり。歌舞の曲をほどこすにのぞみて、人心を動かさずといふことなし。
その中に、紀瞻が愛妾あり。見目(みめ)・形・声の匂ひより始めて、心ざまに至るまで、群に抜けて見えけり。周顗、これに心を移して、よそ人の咎(とが)むばかりになりにけり。あるじ紀瞻が見る所をも憚らず、人目に恥づる心も失せ果てにけり。
有司、おほやけに、周顗が科(とが)あるべきよしを奏し申す。勅して許されにけり。
思ひあまり色に出づるもとがなくは逢はでも恋ひに身をぞかへまし
翻刻
紀瞻出妓 尚書紀瞻カ家ニアマタノ妓女(マヒヒメ)有ケリ王道周顗ヲヨヒモノ(ロ歟)モノ ノ朝士ヒキツレテ紀瞻カ家ニ行ニケリ紀瞻妓女ヲサマサマ カサリトトノヘテトリイタシテケリ歌舞ノ曲ヲホトコスニノ ソミテ人心ヲウコカサストイフコトナシ其中ニ紀瞻カ愛妾 有リミメカタチコヱノニホヒヨリハシメテ心サマニイタルマテ群ニ ヌケテミヱケリ周顗コレニ心ヲウツシテヨソ人ノトカムハカリニ ナリニケリアルシ紀瞻カミルトコロヲモハハカラス人メニハツル 心モウセハテニケリ有司ヲホヤケニ周顗カトカアルヘキ 由ヲ奏申ス勅シテユルサレニケリ ヲモヒアマリイロニイツルモトカナクハアハテモコヒニミヲソカヘマシ/d1-34l
1)
底本「王道」。諸本により訂正。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka05-01.txt · 最終更新: 2017/11/22 23:29 by Satoshi Nakagawa