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text:kohon:kohon021

古本説話集

第21話 伯の母、仏事の事

伯母仏事事

伯の母、仏事の事

校訂本文

今は昔、伯の母1)、仏供養しけり。永縁僧正を請じて、さまざま物どもを奉る中に、紫の薄様に包みたる物あり。開けて見れば

  朽ちにける長柄の橋の橋柱法(のり)のためにも渡しつる哉

長柄の橋の切れなりけり。

またの日、またつとめて、若狭の阿闍梨隆源といふ人、歌詠みなり。来たり。「あはれ、このこと聞きたるよ」と、僧正思すに、懐(ふところ)より名簿(みやうぶ)を引き出でて奉る。「この橋の切れ給はらむ」と申す。「かばかりの貴重(きてう)の物はいかでか」とて、「何しか取らせ給はん。口惜しく」とて、帰りにけり。

すきずきしく、あはれなることどもなり。

翻刻

いまはむかしはくの母ほとけくやうしけり永
縁僧正を請してさまさまものともをたてま
つるなかにむらさきのうすやうにつつみたる物
ありあけてみれは
  くちにけるなからのはしのはしはしら
  のりのためにもわたしつる哉
なからのはしのきれなりけりまたの日又つとめて
わかさのあさりりうくゑむといふ人うたよみなり
きたりあはれこの事ききたるよと僧正
おほすにふところよりみやうふをひきいてて/b69 e35

#ここから筆跡が変わる。前の丁の下に「是迄為氏卿」、次の丁の上に「是より為相卿」という古筆家の付箋がある。

たてまつるこのはしのきれ給はらむと
申かはかりのきてうの物はいかてかとてなに
しかとらせ給はんくちをしくとてかへりに
けりすきすきしくあはれなることとも也/b70 e36
1)
神祇伯康資王の母
text/kohon/kohon021.txt · 最終更新: 2016/01/21 12:10 by Satoshi Nakagawa