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text:karakagami:m_karakagami4-12

唐鏡 第四 漢武帝より更始にいたる

12 漢 孝元帝(1 即位・馮昭儀)

校訂本文

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第九の主を孝元皇帝1)と申しき。諱(いみな)は奭(せき)。宣帝2)の太子なり。御母は許皇后3)と申す。帝、才芸多くして、琴瑟(きんしつ)を弾き、洞簫(どうせう)を吹き給ふ。元暦は癸酉なり。

初元二暦夏六月、斉の地飢ゑて、人あひ食(は)みけり。今年、雌鶏4)、雄となりて鳴くことありき。永元二暦、秋八月に、天より草降ることありき。莎(こすげ)のごとくなる草なり。

建昭五暦に、帝、虎圏5)に幸(かう)して、獣(けだもの)を闘はしめて見給ふに、熊、走り出でて、檻(らん)を攀(よ)ぢて殿へのぼらんとす。左右の貴人、みな驚き走るに、馮昭儀(ふせうぎ)進み出でて、熊に当たりて立つに、左右まはりて熊を打ち殺しつ。帝、問ひ給はく、人の情(こころ)驚き怖(お)づ。何のゆゑにか進みて熊に当たりつる」。昭儀、対(こた)へて申さく、「妾(せう)聞く、猛獣は人を得て止まる。妾、熊の御座に至らんことを恐れて、身をもて当たりつ」と申し給ふに、帝、嗟嘆(さたん)して、いよいよ敬愛し給ふ。

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翻刻

第九主を孝元(カウクワン)皇帝と申き諱は奭(セキ)宣帝の太子也御母
は許(キヨ)皇后と申す帝才藝(サイケイ)多して琴瑟(キンシツ)をひき洞(トウ)簫
をふき給ふ元暦は癸酉也
初元二暦夏六月斉(セイ)の地飢(ウヘ)て人あひはみけりことし
雌雞(メニハトリ)雄となりて鳴事有き
永元二暦穐八月に天より草ふる事ありき莎(コスケ)の
ことくなる草也/s109r・m196
建昭五暦に帝虎圏(トラヤ)に幸て獣(ケタモノ)を闘しめて見給に
熊はしりいてて檻(ラン)を攀(ヨチ)て殿へのほらんとす左右
の貴人皆おとろきはしるに馮昭儀(フセウキ)すすみいてて
熊に当(アタリ)て立に左右まはりて熊をうちころしつ
帝問(トヒ)給はく人の情(ココロ)驚(ヲトロキ)をつ何の故にかすすみて
熊にあたりつる昭儀(セウキ)対(コタヘ)て申さく妾(セウ)聞(キク)猛獣(マウシウ)は
人を得て止る妾熊の御坐に至らんことを恐て
身をもて当つと申給に帝嗟嘆(サタン)していよいよ
敬愛し給この御時に宮中に美人多かりけれは/s109l・m197

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100182414/viewer/109

1)
元帝・劉奭
2)
劉詢
3)
許平君
4)
底本「メニハトリ」と読み仮名。
5)
底本「トラヤ」と読み仮名。
text/karakagami/m_karakagami4-12.txt · 最終更新: 2023/02/19 12:20 by Satoshi Nakagawa