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text:karakagami:m_karakagami2-28

唐鏡 第二 周の始めより秦にいたる

28 斉 孟嘗君

校訂本文

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斉に孟嘗君(まうしやうくん)あり、趙に平原君(へいげんくん)あり、楚に春申君(しゆんしんくん)あり、魏に信陵君(しんりやうくん)あり。この四君はみな明智ありて忠信あり1)。寛厚(くわんこう)にして人を愛し、賢を尊(たつと)びて、士を重くす。

孟嘗君、名を文といふ。父は靖郭君(せいくわくくん)田嬰(でんえい)なり。孟嘗、五月五日生まれたり。父、その母に曰く、「この子を挙げざれ」。 その母、窃(ひそ)かに養長(やうちやう)す。田嬰怒る。孟嘗が曰く、「五月に生まれたる子を養はざるは何のゆゑぞ」。父が曰く「五月子は長(たけ)戸とひとし。父母に利なし2)」。孟嘗が曰く、「人生まれて命を天に受く。命を戸に受く3)、君何ぞ憂ふる。命を戸に受かば、則(すなは)ちその戸を高くすべし」。父つひに嫡嗣(ていし)とす。

名望(めいばう)世に聞こえて、三千の客を養ふ。その中に鶏の鳴きをする者あり、また狗(いぬ)の盗みするものもあり4)

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斉に孟嘗君(マウシヤウクン)あり趙(テウ)に平原(ヘイゲン)君あり楚に春申君(シユンシンクン)あり
魏に信陵君(シンリヤウクン)あり(イ此四君ハ皆明智アリテ忠信アリ)寛厚(クワンカウ)にして人を愛し賢を尊(タツトヒ)て
士を重す孟嘗君名を文といふ父は靖郭君田嬰(セイクワククンテンエイ)なり孟
嘗五月五日むまれたり父其母に曰くこの子を挙されその
母竊(ヒソカ)に養長(ヤウチヤウ)す田嬰怒る孟嘗かいはく五月にむまれたる
子を養さるは何の故そ父か曰く五月子は長戸(タケト)とひとし
父母に利なし孟嘗か曰く人生て命を天に受く命を/s50l・m91

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100182414/viewer/50

戸に受く(イ命ヲ天ニ受ハ)君何(ソ)憂(ウレウ)る命を戸に受は則其戸を高すへし
父遂に嫡嗣(テイシ)とす名望(メイバウ)世に聞て三千の客を養ふそ
の中に鶏(ニハトリ)の鳴(ナキ)をするものあり又狗(イヌ)の盗(ヌスミ)するものもあり/s51r・m92

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100182414/viewer/51

1)
この文底本なし。異本注記により補う。
2)
『史記索隠』・『史記正義』によると、五月五日生まれの男子は成長して父を、女子は母を殺すという俗説があった。
3)
底本「命ヲ天ニ受クハ」と異本注記
4)
鶏鳴狗盗の故事
text/karakagami/m_karakagami2-28.txt · 最終更新: 2022/12/20 18:39 by Satoshi Nakagawa