第71段　昔男伊勢の斎宮に内の使にて参れりければ・・・

校訂本文

昔、男、伊勢の斎宮(いつきのみや)に、内の使(つかひ)にて参れりければ、かの宮にすきごと言ひける女、私(わたくし)ごとにて、

　　ちはやぶる神の斎垣(いがき)も越えぬべし大宮人(おほみやびと)の見まくほしさに

男、

　　恋しくは来ても見よかしちはやぶる神のいさむる道ならなくに

むかしおとこいせの斎宮に内のつかひ
にてまいれりけれはかのみやにすきこと
いひける女わたくしことにて／s82r

　　ちはやふる神のいかきもこえぬへし
　　おほみや人の見まくほしさに
おとこ
　　恋しくはきても見よかしちはやふる
　　神のいさむるみちならなくに／s82l

【絵】／s83r