text:ichigonhodan:ndl_ichigon059
一言芳談抄 巻之下
59 又云はく昔は後世を思ふ者は上臈は下臈になり・・・
校訂本文
又云はく1)、「昔は後世を思ふ者は、上臈(じやうらふ)は下臈(げらふ)になり、智者は愚者になり、徳人(とくにん)は貧人(ひんにん)になり、能ある者は無能にこそなりしが、今の人はこれにみな違(たが)へり。
われは、高野に、はじめも中ごろも、久しくありしかども、梵字一つも習はず。名利(みやうり)を捨つる習ひには、ある能をだにもこそ捨てられ、習ふことは、うたてしきことなり。われは、三十余年、さやうのこと知らじと習ひしなり。
欲過ぐれば、捨てぬもののやうにてあるなり。名利を捨つるといへばとて、同行(だうぎやう)を恥ぢず、紙衣(かみぎぬ)一つ求めて着るほどのことをいふにはあらず。これほどの名利は、後世を助くるなり。
翻刻
又云むかしは後(ご)世をおもふものは上臈(らう)は下臈(げらう)になり。智(ち) 者(しや)は愚者(ぐしや)になり。徳人(とくにん)は。貧人(ひんにん)に成(なり)。能(なう)あるものは無(む) 能(なう)にこそ成(なり)しが。今(いま)の人はこれにみなたがへり。我(われ)は 高野(かうや)にはじめも。中比(なかごろ)もひさしくありしかども梵(ぼん) 字(じ)一もならはず。名利(みやうり)を捨(すつ)るならひには。ある能を/ndl2-4r
だにもこそ捨(すて)られ。ならふ事はうたてしき事也 。我は三十餘(よ)年さ様(やう)の事しらじとならひし也。よく すぐれば。すてぬものの様にてあるなり。名利(みやうり)を捨(すつる)と いへばとて。同行(だうぎやう)をはぢす。紙衣(かみぎぬ)ひとつもとめて。き るほとの事をいふにはあらず。これ程(ほど)の名利(みやうり)は 後世(ごせ)をたすくるなり/ndl2-4l
1)
顕性房の言葉。53 松蔭の顕性房の云はく渡りに出でたる舟に行きあひたるには・・・参照。
text/ichigonhodan/ndl_ichigon059.txt · 最終更新: 2023/09/03 18:30 by Satoshi Nakagawa