text:ichigonhodan:ndl_ichigon046
一言芳談抄 巻之上
46 又云はくある人尋ね申して云はく一向に後世のためと思ひてし候はん学問・・・
校訂本文
又云はく1)、「ある人尋ね申して云はく、『一向に後世のためと思ひてし候はん学問、いかが候べき』。仰せて云はく、「始めは後世のためと思へども、後にはみな名利(みやうり)になるなり』」。
折々、仰せられて云はく、「某(それがし)が身には、この御山に居そめたりけるが悪事にて候ひける。遁世(とんせい)しなん後は、榾(ほた)の上に味噌焼きなどうち置きて、はさみ食ふ風情にてありなんずるとこそ思ひしに、かへりて道の物になりて、ゆゆしげなる有様にて候ふこと、本意相違(ほんいさうゐ)のことなり。これは内心をば知らず、かやうにて閉ぢ籠りたる体に候ふことを、人の心にくく思へるゆゑなり」とて、苦み給ひしなり。
翻刻
又云或人(あるひと)たづね申云。一向に後世(ごせ)のためと思ひてし候 はん学問(がくもん)いかが候べき。仰云。始(はじめ)は後(ご)世のためと思へども/ndl1-16l
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/2583390/1/16
。後には皆(みな)名利(みやうり)になるなり。おりおり被仰云。某(それがし)が身 には。此御山(やま)にゐそめたりけるが。悪事(あくじ)にて候ける 。遁世(とんせい)しなん後はほたの上(うへ)に。みそやきなどうちをき て。はさみくふふぜひにて。有(あり)なんずるとこそ思ひし に。かへりて道の物になりて。ゆゆしげなるありさまに て候事。本意相違(ほんいさうい)の事也。これは内心(ないしん)をはしらず。か 様にて閇籠(とぢこもり)たる体(てい)に候事を。人の心にくくおもへる ゆへなりとて。にがみたまひしなり/ndl1-17r
1)
明遍の言葉。45 明遍僧都云はく紙衣に衣紋つくろふほどの者は・・・参照。
text/ichigonhodan/ndl_ichigon046.txt · 最終更新: 2023/08/27 12:29 by Satoshi Nakagawa