text:chomonju:s_chomonju718
718 摂津国岐志荘に一丈あまりばかりなる蛇の耳生ひたる時々出現して・・・
校訂本文
摂津国岐志荘に、一丈あまりばかりなる蛇(くちなは)の耳生ひたる、時々出現して人をなやましけり。
見あふ者1)必ず病みければ、この蛇出でたると聞きては、村人、門戸を閉ぢて逃げ隠れけるほどに、同じ住人左近将監なにがしとかやいふなる男(をのこ)、熊鷹(くまたか)を飼ひけり。ある日、この蛇出でたりけるに、例のことなれば、里の人、隠れ迷ひけるに、蛇、熊鷹に目をかけて這ひ行く。熊鷹もまた身を細め毛をひきて、蛇に目をかけてありけるほどに、しばしばかりありて、この蛇、熊鷹の檻(をり)のもとにすてに近付きぬ。件(くだん)の檻は細き木を土に打ち立ててあるものにて侍るを、この蛇、檻の間(はざま)より頭(かしら)を差し入れて飲まむとするを、熊鷹、蛇の頭より下(しも)五・六寸ばかりをさげて、むずとつかみてけり。強くつかまれて、蛇、檻をひしひしと巻きける。次第に強く巻かれて、檻の屋の上破れて、一所へ取り寄せたるやうになりにけり。下(しも)は土に打ち入れたれば、はたらかず。その時、熊鷹、蛇の首を食ひ切りにければ、まとひつるもとけにけり。
それより蛇失せて、人なやむことなくなりて、村里の喜びにてぞありける。
翻刻
摂津国岐志庄に一丈あまりはかりなる蛇の耳を ひたる時々出現して人をなやましけり見あふみのか ならすやみけれは此蛇いてたるとききては村人門 戸をとちてにけかくれける程に同住人左近 将監なにかしとかやいふなるをのこくまたかをかいけり 或日この蛇いてたりけるにれいのことなれは里の人 かくれまよひけるに蛇くまたかに目をかけてはいゆ くくまたかも又身をほそめ毛をひきて蛇に目を かけてありける程にしはしはかりありてこの蛇/s556l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/556
くまたかのをりのもとにすてにちかつきぬ件をりは ほそき木をつちにうちたててある物にて侍を この蛇をりのはさまよりかしらをさし入てのまむ とするをくまたか蛇のかしらよりしも五六寸はかり をさけてむすとつかみてけりつよくつかまれてく ちなわをりをひしひしとまきける次第につよく まかれてをりのやのうへやふれて一所へとりよせたる やうになりにけりしもはつちにうちいれたれはは たらかすそのときくまたか蛇のくひをくひきりに けれはまとひつるもとけにけりそれより蛇うせて 人なやむことなくなりて村里のよろこひにてそ有ける/s557r
1)
「者」は底本「みの」。諸本により訂正。
text/chomonju/s_chomonju718.txt · 最終更新: 2021/01/30 00:17 by Satoshi Nakagawa