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古今著聞集 草木第二十九
666 後堀河院御位の時嘉禄二年九月十一日例幣に頭中将宣経朝臣以下・・・
校訂本文
後堀河院1)御位の時、嘉禄二年九月十一日、例幣(れいへい)に頭中将宣経2)朝臣以下、職事(しきじ)ども参りて出御待つほど、人々、鬼の間に集まりゐて、何となき物語しけるに、大盤所には内侍ども・さらぬ女房たちも候ひけり。渡殿(わたどの)には貫首(くわんじゆ)にしたがひたる蔵人ども並びゐて、内も外(と)もなくさまざまの物語言ひかはすに、少将の内侍、台盤所の御つぼの楓(かへで)の木を見出だして、「この楓に、初紅葉(はつもみぢ)3)のしたりしこそ失せにけれ」と言ひたりけるを、頭中将聞きて、「いづれの方にか候ひけむ」とて、梢を見上げければ、人々もみな目を付けて見けるに、蔵人永継4)、とりもあへず、「西の枝にこそ候ひけめ」と申したりけるを、右中将実忠朝臣5)、御剣の役のために参りて同じくその所に候ひけるが、この言を感じて、「このごろは、これほどのことも心とくうち出づる人はかたきにてあるに、優(いう)に候ふものかな」とて、うちうめきたるに、人々みな入興(じゆきよう)して、満座感歎しけり。
まことに、とりあへず言ひ出づるも、また聞きとがむるも、いと優にぞ侍りける。『古今6)』の歌に、
おなじ枝を分きて木の葉の色づくは西こそ秋の初めなりけれ
と侍るを7)思はえて言へりけるなるべし。
翻刻
後堀河院御位の時嘉禄二年九月十一日例幣に 頭中将宣維朝臣以下職事ともまいりて出御まつ 程人々鬼間にあつまりゐて何となき物語しける に大盤所には内侍共さらぬ女房たちも候けり/s523l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/523
わた殿には貫首にしたかひたる蔵人ともならひ ゐてうちもともなくさまさまの物かたりいひかはすに 少将内侍臺盤所の御つほのかゑての木をみ出して このかえてにはつらみちのしたりしこそうせにけれ といひたりけるを頭中将ききていつれの方にか 候けむとて梢を見あけけれは人々もみなめをつけ てみけるに蔵人永継とりもあへす西の枝にこそ 候けめと申たりけるを右中将実忠朝臣御剱 の役のためにまいりておなしくその所に候けるか 此言を感して此比はこれほとの事も心とくうち いつる人はかたきにてあるに優に候ものかな/s524r
とてうちうめきたるに人々みな入興して満座 感歎しけりまことにとりあへすいひいつるも又 ききとかむるもいと優にそ侍ける古今哥におなし 枝をわきて木のはの色つくはにしこそ秋のはしめ なりけれとおもはへていへりけるなるへし/s524l
text/chomonju/s_chomonju666.txt · 最終更新: 2021/01/11 12:15 by Satoshi Nakagawa