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古今著聞集 宿執第二十三
498 行願寺に全舜法橋といふ者ありけり・・・
校訂本文
行願寺に全舜法橋といふ者ありけり。鞠足・箏弾きなりけり。ゆゆしき数寄者(すきもの)にて侍りけるが、不食(ふじき)の所労重りて、すでに命終(みやうじゆ)の期になりて、木工権守孝道朝臣1)のもとへ使者2)をやりて言ひけるは、「所労大事にまかりなりて、命旦暮(たんぼ)にあり。今一度見参に入りて、黄泉路(よみぢ)やすくまからばや。御わたりありなんや」と言へりければ、孝道朝臣、すなはち馳せ来たられにけり。
対面して、「心にかかりけること候ひて申し侍りつるなり。万秋楽(まんじうらく)の序の聞きたく侍るなり。この辺にも管絃者は候へども、同じくは御琵琶にて聴聞つかうまつりたきなり3)と言ひければ、すなはち琵琶尋ね出だして弾ぜられけり。病者みづから善知識の前なる磬(けい)を取りて、太鼓のつぼに打ち当てて、涙を流しつつ聞きゐたりけり。
さて、すなはち終りける。あはれなりけることなり。
翻刻
行願寺に全舜法橋といふ物ありけり鞠足箏 ひきなりけりゆゆしきすきものにて侍けるか不食/s399r
の所労おもりて既に命終の期になりて木工権守 孝道朝臣のもとへ伝者をやりていひけるは所労大事 にまかりなりて命旦暮にありいま一度見参に 入てよみちやすくまからはや御渡ありなんやといへり けれは孝道朝臣則はせきたられにけり対面し て心にかかりける事候て申侍つる也万秋楽の 序のききたく侍なり此辺にも管絃者は候へとも おなしくは御琵琶にて聴聞つかうまつりたる也といひ けれは則琵琶尋いたして弾せられけり病者み つから善知識の前なる磬をとりて大鼓のつ ほに打あてて涙をなかしつつききゐたりけりさて/s399l
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すなはちをはりけるあはれなりける事也/s400r
text/chomonju/s_chomonju498.txt · 最終更新: 2020/09/08 16:01 by Satoshi Nakagawa