text:chomonju:s_chomonju491
古今著聞集 宿執第二十三
491 知足院殿に小物御前と申す御愛物ありけり・・・
校訂本文
知足院殿1)に、小物御前と申す御愛物(ごあいぶつ)ありけり。後には播磨殿とぞ申しける。知足院に御殿を建て賜はせけり。入道殿失せさせ給ひて後、若くおはしましける時の御影を描きて、御形見にはせられけり。その御かたはらには、御箏一張を立てられたりけり。
播磨殿より普賢寺殿2)の御女(むすめ)に、この殿をば伝へ参らせられけり。夜更くるほどには、時々その御箏の鳴り侍るとかや。入道殿の御宿執にて弾かせ給ふにや。物をねぎ申さるなれば、そのことのかなふべきしるしには、必ずまた御箏の音(おと)の聞こゆなり。あはれに不思議なることなり。
翻刻
知足院殿に小物御前と申御愛物ありけり後には 播磨殿とそ申ける知足院に御殿をたてたま はせけり入道殿うせさせ給て後わかくおはしましける/s392r
時の御影をかきて御かたみにはせられけりその御か たはらには御箏一張を立られたりけり播磨殿 より普賢寺殿の御むすめに此殿をはつたへまいら せられけり夜ふくるほとには時々その御箏のなり侍 とかや入道殿の御宿執にてひかせ給にや物をねき 申さるなれはそのことのかなふへきしるしには必又御箏 のをとのきこゆなり哀にふしきなる事也/s392l
text/chomonju/s_chomonju491.txt · 最終更新: 2020/09/02 22:11 by Satoshi Nakagawa