text:chomonju:s_chomonju489
古今著聞集 宿執第二十三
489 仁平三年のころより孝博入道重病を受けたりけるに・・・
校訂本文
仁平三年のころより、孝博入道1)、重病を受けたりけるに、次の年の二月十一日に、妙音院入道殿2)、宰相中将にておはしましけるが、とぶらひのためにかの家にわたらせ給ひたりけるに、孝博、病をたすけて起き上がりて、「楽を承らば、苦痛しばらく3)休みぬべし」と申したりければ、伶人(れいじん)を召して管絃ありけり。
妙音院殿は琵琶を弾じ給ひけり。孝博、「心神安楽なり」とぞ申しける。やや久しくありて、妙音院殿は帰らせ給ひにけり。あはれにやさしかりける4)御わたりなり。
孝博、老後に重病を受けて、念仏などをこそ申すべきに、宿執に引かれて、楽を聞きたがりけるこそ、あはれに侍れ。
翻刻
仁平三年の比より孝博入道重病をうけたりける に次のとしの二月十一日に妙音院入道殿宰相中将 にておはしましけるかとふらひのために彼家にわた らせたまひたりけるに孝博病をたすけてを きあかりて楽をうけたまはらは苦痛しはしく休 ぬへしと申たりけれは伶人をめして管絃あ りけり妙音院殿は琵琶を弾し給けり孝博心神 安楽なりとそ申けるやや久しくありて妙音院殿 はかへらせ給にけりあはれにやうしかりける御わたり/s391r
なり孝博老後に重病をうけて念仏なとを こそ申へきに宿執にひかれて楽をききたか りけるこそあはれに侍れ/s391l
text/chomonju/s_chomonju489.txt · 最終更新: 2020/08/30 12:27 by Satoshi Nakagawa