text:chomonju:s_chomonju432
古今著聞集 偸盗第十九
432 いづれのころのことにか西の京なる者夜深く朱雀門の前を過ぎけるに・・・
校訂本文
いづれのころのことにか、西の京なる者、夜深く朱雀門の前を過ぎけるに、門の上に火を灯して侍りけり。「この門には、昔、鬼住みけると聞くに、今も住み侍るにや」と、恐しさかぎりなくて過ぎぬ。
その後、またある夜通るに、さきのごとく火を灯したり。このこと怪しくて、在地に披露しければ、死生不知の村人ども評定(ひやうぢやう)して、「いざ、行きて見ん」とて、そこばく来たりて、門に登りて見ければ、いとなまやかなる女房一人臥したりけり。
思ひ寄らぬことなれば、「化物(ばけもの)なめり」と恐しながら、ことの子細を問ふに、はやく盗人なりけり。年ごろこの門に住みて、夜は強盗をして過ぎけるが、このほど手を負ひて、病み臥して侍りけるなり。
翻刻
いつれの比のことにか西京なるもの夜ふかく朱雀 門の前を過けるに門のうへに火をともして侍 けりこの門にはむかし鬼すみけるときくに今も 住侍にやとおそろしさかきりなくて過ぬその のち又或夜とをるにさきのことく火をともし たりこの事あやしくて在地に披露しけれは 死生不知の村人とも評定していさ行てみん とてそこはくきたりて門に登てみけれはいと/s329r
なまやかなる女房一人ふしたりけりおもひよらぬ 事なれははけ物なめりとおそろしなからことの子 細をとふにはやく盗人なりけりとし比この門 にすみて夜は強盗をしてすきけるかこの 程手をおいてやみふして侍けるなり/s329l
text/chomonju/s_chomonju432.txt · 最終更新: 2020/06/21 12:11 by Satoshi Nakagawa