text:chomonju:s_chomonju399
古今著聞集 画図第十六
399 伊予入道は幼くより絵をよく書き侍りけり・・・
校訂本文
伊予入道1)は、幼くより絵をよく書き侍りけり。父、うけぬことになん思へりけり。
無下(むげ)に幼少の時、父の家の中門の廊の壁に、土器(かはらけ)の割れにて、不動2)の立ち給へるを書きたりけるを、客人(まらうど)誰(たれ)とかや、たしかに聞きしを忘れにけり、これを見て、「誰(た)が描きて候ふにか」と驚きたる気色にて問ひければ、主(あるじ)うち笑ひて、「これはまことしき者の描きたるには候はず。愚息の小童が書きて候ふ」と言はれければ、いよいよ尋ねて、「しかるべき天骨とはこれを申し候ふぞ。このこと制し給ふことあるまじく候ふ」となん言ひける。げにもよく絵見知りたる人なるべし。
翻刻
伊与入道はおさなくより絵をよく書侍けり父うけぬ/s301r
事になん思へりけり無下に幼少の時父の家の中門の 廊の壁にかはらけのわれにて不動の立給へるを書たり けるを客人たれとかや慥に聞しを忘にけりこれを みてたかかきて候にかとおとろきたるけしきにて とひけれはあるしうちわらひてこれはまことしき物の かきたるには候はす愚息の小童か書て候といはれ けれはいよいよ尋て可然天骨とはこれを申候そ此 事制し給事あるましく候となんいひけるけにも よく絵みしりたる人なるへし/s301l
text/chomonju/s_chomonju399.txt · 最終更新: 2020/05/20 17:10 by Satoshi Nakagawa