text:chomonju:s_chomonju386
古今著聞集 画図第十六
386 花山法皇書写上人の徳を尊び給ふあまり絵師を召し具して・・・
校訂本文
花山法皇、書写上人1)の徳を尊び給ふあまり、絵師を召し具して、かの山2)にのぼらせ給ひて、御対面の間に、絵師といふことをば隠して、上人の形をよく見せて、隠れにて写させられけり。
その時、山響き地動きければ、法皇、驚き思し召しける御心を知りて、「これは性空が形を写し給ふゆゑに、なゐのふり候ふなり」と申されければ、いよいよ信おこさせ給ひけり3)。
さて、聖の御顔に、いささか痣(あざ)のおはしけるを、絵師、見落して書かざりけるを、なゐのふりける騒ぎに、筆を落としかけたりけるが、そこにしも筆落ちて、墨付きたりけるが、痣にたがはずなん侍りければ、みな人不思議のことなん思へりける。
件(くだん)の影、今にかの山の宝蔵にありとなん。
翻刻
花山法皇書写上人の徳をたうとひ給あまり 絵師を召具して彼山にのほらせ給て御対面の 間に絵師といふ事をはかくして上人の形をよく/s293r
みせてかくれにて写させられけり其時山ひひき 地うこきけれは法皇おとろきおほしめしける 御心を知てこれは性空かかたちをうつし 給ゆへにないのふり候也と被申けれは弥信 おこせ給けりさて聖の御顔にいささかあさ のをはしけるを絵師見おとしてかかさりけ るをないのふりけるさはきに筆をおとし かけたりけるかそこにしも筆落て墨つき たりけるかあさにたかはすなん侍けれはみな 人ふしきの事なんおもへりける件の影 いまに彼山の宝蔵にありとなん/s293l
text/chomonju/s_chomonju386.txt · 最終更新: 2020/05/15 17:45 by Satoshi Nakagawa